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「あれだけ蹴っても倒れなかった…」武尊を筋断裂に追い込んだ王者スーパーレックはなぜ敗者を称えたのか? 互いに限界を超えた激闘のウラ側
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byONE Championship
posted2024/02/01 17:01
1月28日のONE日本大会で激闘を繰り広げたスーパーレックと武尊。両者ともに限界を超えた一戦は、王者スーパーレックに軍配が上がった
「武尊有利」を予想するブックメーカーも多かった
武尊の対戦相手がロッタンからスーパーレックに変更になったとき、落胆したファンは多い。筆者もそうだった。かつて那須川天心と激闘を繰り広げたロッタンのネームバリューは日本でも抜群だったが、スーパーレックの知名度はその実力に比して皆無に等しかったからだ。
しかもロッタンが相手ならば、お互い“打ち合い上等”でのKO決着が期待できた。対照的にスーパーレックは試合巧者のため、武尊とはリスクの高い打ち合いをあえてせず、「得意の蹴りやヒザを活かしたポイント重視の試合を組み立てるのではないか」と予想されたのだ。
上記の相性と過去の実績から、筆者は「スーパーレックが圧倒的に有利」という予想を立てたが、海外では「武尊有利」を予想するブックメーカーも多かった。昨年は一度しか試合をしていないものの、武尊への評価は試合前から高かった。ヒジ打ち禁止のキックボクシングルールでの対戦というのも、武尊有利とする根拠のひとつになったのかもしれない。
だが、スーパーレックはキックボクシングにも高いレベルで順応していた。かつてムエタイといえば、ヒジ打ちや首相撲からのヒザ蹴りに加えて、ミドルキック以上の“打点の高い蹴り”での攻防が主だった。しかしながらONEの出現、そして海外のキックボクシング団体からのオファーを受け、タイ人ファイターもパンチ主体のキックルールへの適応を余儀なくされた。
そもそもなぜ今回スーパーレックがローキックを多用したかといえば、5ラウンドという長丁場に備え、武尊の足を殺しパンチを打つときに踏ん張りを効かせなくする戦略を立てていたからにほかならない。その一方で武尊は“肉を斬らせて骨を断つ”覚悟で、ローをもらいながら左右のフックをヒットさせる作戦だった。それが功を奏した攻防もあったが、ジャッジは武尊のボディや下半身のダメージをしっかりと採点に反映していた。冷静に試合全体を通してみると、3-0という判定には納得せざるをえない。