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「えっ、マジで?」あっけない幕切れでも…那須川天心はボクシング3戦目でどう進化した?「棄権がなくてもTKO勝ちは時間の問題だった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/01/25 17:00
ルイス・ロブレスの棄権に残念そうな苦笑いを浮かべる那須川天心。とはいえ、3ラウンドという短い時間でボクサーとしての進化を示した
棄権がなくてもTKO勝ちは時間の問題だった
元世界王者で那須川の成長を見守る浜田剛史・帝拳プロモーション代表は次のように説明した。
「前回の試合で1回にダウンを取ったあと、相手がガードを固めて前に出てこなくなった。第1戦でもロープに詰めて、もう少し手が出れば、というシーンがあった。そういう場面を打開するために、自分から打ち込んでいくスタイルです。ミットもサンドバッグも体重を乗せてパンチを打つ。自分から打ち込めば体重が乗りますから。今まではどちらかといえば相手の力を利用したボクシング。今回は“攻め切る”を重点的に練習しました」
この日の那須川は練習してきたことを忠実に実行した。スタートから低く構えるロブレスに対し、ジワジワと圧力をかける。ジャブを出すだけでなく、たとえ手を出さなくてもより有利なポジションを探し、相手を追い込んでいくのが圧力だ。
那須川が圧力について説明した。
「自分から圧力がかけられるようになった。前の手がほんと自分の中でうまくなったというか、(ジャブの)差し合いで負けなくなった。プレスをかけて攻めていく。これまではよけていたけど、ガードして返すという練習もしていた。それができたと思う」
突破口となるジャブに続いたのがボディブローだ。ストレート、アッパー、フックと軌道を変化させて打つボディブローは、ガードを固めて低く構えるロブレスには有効だった。
相手のパンチをブロックした瞬間に打ち返すリターンも効果的だ。「3ラウンド、ラスト10秒のとき、一発入れたら相手が『うーっ』と言っていた」と那須川。粟生隆寛トレーナーが「あのまま続いていてもあと1回か2回で終わったと思う」と言うように、おそらくロブレスの棄権がなくても、TKO勝ちは時間の問題だっただろう。
会心の勝利に那須川は「全局面で勝てたので相手の心も折れたと思う。だからロマチェンコ勝ちですよ」と現役最高峰のテクニックを持つと言われるボクサーの名前を挙げ、「TKOだったので、とりあえず(T)KOという感じでしたかね。自分の中でもうちょいいろいろやりたいことがあったけど、進化してるものをお客さんにも見せられたと思うし、これなら負けないというものを見せられたと思う。一歩ずつ一歩ずつなんで。今回はTKOでしたけど、次はTを抜いてKOかなと」と軽快に続けた。