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「沼にハマってましたね」元祖・山の神が陥った負のスパイラル…今井正人39歳が語った「マラソン=冒険」の真意とは《独白75分》
posted2024/01/13 11:20
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Miki Fukano
「もう地獄とは言わないですけど、ズブズブだったと思います。自分では大変だと思って無かったんですけど、今思うとハマっていたな、と。沼でしたね。抜けれなかった。2年、3年と」
箱根駅伝の総合優勝、5区山上りでの衝撃な区間新記録で大きな注目を浴びた今井正人。だが、今井のマラソンランナーとしての道のりは、箱根の山のように大きな起伏があった。
2008年の初マラソンから「サブ10」(2時間10分切り)までには8本のレースと5年半の月日を要すなど苦労を重ねた。だが、そこできっかけを掴むと、2015年東京マラソンでは日本歴代6位(当時)の2時間7分39秒で走り、見事に世界陸上北京の代表を掴んだ。その走りを目撃した際には、これからは今井が日本のマラソンを牽引していくかと思われた。
ただ、無念の髄膜炎で世界陸上を欠場。そこからは再び長いトンネルに入ってしまった。冒頭で紹介した「沼」と本人が語ったのは、この負のスパイラルに陥っていた2015年から2、3年を振り返った時の言葉だ。
「2015年の東京マラソンまでの2、3年というのは、競技者として平常心というか、流れるように練習をしていた。当たり前のことを、当たり前のようにこなせていた時期です。いい状態? そうですね、それにいい状況だったと思います。ただ、そのあと病気で世界選手権に出れなくて…人間どうしても、タイムが良かった頃の自分と比較して、当時の状態を追い求めてしまった。そこで沼にハマっていったような自分がいました」
だが、山の神は無事に「沼」からの帰還を果たす。
37歳で迎えた2022年の大阪マラソン。自己2番目のタイムとなる2時間8分12秒で走り、6位。星岳、山下一貴らマラソン経験の少ない若手が躍進する中で存在感を放ち、パリ五輪代表の座をかけたMGCの出場権を掴んだのだ。
「正解を見つけにいって、冒険している感じ」
このマラソンを今井はこう振り返る。
「自信を取り戻すきっかけになりました。そこまで競技者、プロ意識を持っている人間として、試合で先頭でゴールするというレベルでできていなかったので、大阪のちょうど1年前に監督とも話をして“節目”になると覚悟をしていました。だから、今までの陸上人生の全てを出し切りたいな、と。だからあっという間でしたね。いい集中力だったし、何より自分自身に集中できていました。それに、そういう自分でいられたら勝負できるんだな、というのを再確認できたのが嬉しかったです」
起伏を乗り越え、結果を残してきた今井が42.195kmを走る「マラソン」という競技をどう捉えているのか。練習、メンタル、補給。さまざまな面で質問を重ねていくと、マラソンは「わからないから楽しい」という言葉が返ってきた。
「正解を見つけにいって、冒険している感じで楽しいです。すぐに正解を見つけてしまったら、次が頑張れないじゃないですか。あれでもない、これでもないともがいたり、ちょっと正解のようなものが見えてきたら快感を覚えたり」
今井は、マラソンという何が正解で、何がゴールへの近道かわからない、いわば「ブラックボックス」のような競技の奥深くを、長い時間をかけて冒険しているのだ。
今回のロングインタビューでは、その冒険の意味について、過去のレースや同級生のキプチョゲらを引き合いに出しながら大いに語ってくれた。
ライバルとしての大迫傑や川内優輝らをどう見ているのか?
YouTubeでは今回の75分のインタビューのうち、冒頭約10分を無料で公開している。
もちろんインタビューでは、このマラソンの難しさに関する話以外にも多くのことを語ってくれた。
・大雨のMGCでほぼ最後尾を走りながら考えていたこと
・なぜオリンピックに憧れ続けるのか?
・入賞した2013年、2014年のニューヨークシティマラソンにおけるレアな経験
・大迫傑や川内優輝らをどう見ているのか?
そしてトークの最後で「今後の今井正人」がどんな道を行くのかを考える上で、重大なヒントになる言葉が飛び出している。
駅伝やマラソンで見るものの心を動かす走りを見せ、周囲を自然と気遣い、ファンに愛されてきた今井。そのランナーとしての「思考」の奥底を覗かせてくれたインタビューを読めば、今後もその存在から目が離せなくなるはずだ。
【全編はこちら】ロングインタビュー動画は、雑誌ナンバーの記事がすべて読めるサブスクNumberPREMIERの今井正人が語ったマラソン、失敗の本質、そして“少し先の未来”《独占告白75分》からご覧になれます。