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「悔しいですけど…」それでも駒澤大・花尾恭輔が貫いた「笑顔を絶やさない」という信念…“仲間たちに愛された男”の箱根駅伝ラストラン秘話
posted2024/01/08 11:03
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Nanae Suzuki
やっとの思いで立った、復活の舞台だった。
9区スタートの戸塚中継所、藤色の襷を肩にかけた駒澤大・花尾恭輔の表情はやや緊張しているように見えた。
彼にとっては、2年振りの箱根駅伝。どんな思いで、あの場所に立っていたのだろう。
「1年間ずっと苦しい思いをして、やっとこうスタートラインに立てたというか……。色んな思いを噛みしめてました」
先頭を走る青学大との差は5分33秒。残り2区間で追いつくのは現実的に厳しい状況だった。
度重なる疲労骨折、レース後に明かした苦悩
「なので正直、スタートした時点で難しいなと思っていて、自分の走りに徹するという気持ちでしたね」
話を聞いたのは、レース終了直後の大手町。関係者でごった返す選手の待機場所で、すでに花尾は数名の記者に囲まれていた。
苦しかった1年についても、質問が飛ぶ。
胃腸炎による体調不良で前回の箱根を走れなかった。体調が戻ると今度は練習時に右足くるぶしを痛めた。春先から何度も疲労骨折に見舞われ、ようやく走り始めたのが夏合宿の後半だった。
その間、どんな思いでいたのか。
「もし実業団に就職が決まってなかったら、確実に陸上の道からは逃げてたなって思います。それくらいキツかったので。ずっと走れなくて、食欲も落ちて。それでも夏合宿とかでみんなが頑張っている姿を見て、ここで負けるわけにはいかないなって。まだ先に大会があったので、とりあえずそこに向かってやろうと」
「仲間の前で笑顔を絶やさない」という信念
チームメイトがしっかり走って距離を踏む中、花尾はひたすら負荷の少ないバイクを漕いだ。チームの士気を下げてはいけないと、疲労骨折のことは仲間にも黙っていた。一人になれば気持ちがふさいで落ち込むことばかりだったが、それでも仲間の前で笑顔を絶やさなかったのは、こんな理由からだった。
「去年の4年生がすごく明るいチームを作ってくれて、4年生の力ってすごいなと思いましたし、自分たちが最上級生になっても、そういう雰囲気は絶対に崩したくなかったので。それに、同期が励ましてくれたのも大きいです」