濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
武尊「天心選手に負けたのは…」ベトナムに学校建設、自炊弁当…THE MATCH“あの敗戦”後の日々「1日でも早くロッタンとやりたかった」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/12/24 11:02
ロッタン戦が発表された会見、その楽屋でインタビューに答えた武尊
なぜロッタンにこだわる?「天心選手との試合で負けたのは…」
試合の場としては、シンガポールに拠点を置くONE Championshipと新たに契約。MMA、キック、ムエタイ、グラップリングでタイトルを制定するアジア最大級の格闘技イベントだ。
武尊がONEと契約した理由は一つ。ロッタン・ジットムアンノンと闘うためだ。現ONEムエタイ王者のロッタンは世界最高峰の“倒し屋”。2018年にはRISEで那須川天心と対戦している。結果は判定負けだったものの、本戦5ラウンドで決着がつかず延長にもつれこむ接戦になった。プロキャリア全勝の那須川が最も苦しんだ相手だったと言っていい。
そんなロッタンと拳を交えることを、武尊は熱望した。「最高の殴り合いができる」と。しかしそれだけではなかった。那須川が延長判定でなんとか下した相手を、自分はKOしたい。そんな思いがあるのだ。
もちろん、格闘技に三段論法はない。那須川が判定勝利だったロッタンをKOしても、武尊のほうが那須川より上だということにはならない。それを分かっていて、なお“那須川天心を苦しめたロッタン”とやりたい。記者会見でも、そう素直に言っていた。「天心選手に関係なく、強い相手だからロッタンとやりたい」とでも言っておいたほうが格好がつくのだろうが、そんなことはどうでもいいのだ。
「ロッタン選手に勝って何が得られるか。自分の中での納得ですよね。ファイターって、負けると何をしていても心のモヤモヤが晴れないんです。次に勝つまでずっとそうで。特に天心選手との試合で負けたのは大きかった。フランスの試合でキャリアの“最終履歴”は黒星じゃなくなったんですけど、それでもまだ払拭できない悔しさがあります。東京ドームで負けて“人生終わった”とまで思いましたから」
天心戦の敗北後、武尊に残ったもの
新人時代の経験から、武尊は「負けたら人が離れていく」と思っていた。だが東京ドームで聴いたのは、観客からの「ありがとう」という声だった。那須川天心に負けた自分を、それでも応援してくれる人がいることに気づいた。それが復帰への原動力にもなった。復帰して勝ち星を得て、新たなベルトも巻いた。それでもまだ、悔しさが残ると言う。やはり率直だ。「あの日のことはもう振り切った」とは言わないし言えない。