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八重樫東「やってやるよ、こいよ」両目がパンパンに…いま明かす“怖かった”あのロマゴン戦の心中「僕はヤンキーではないけど」「尚弥と似ていた」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/24 11:05
2014年9月、ローマン・ゴンサレスに敗れ一夜明けた八重樫東。左は井上尚弥
セミファイナルで、WBCライトフライ級王者の井上尚弥が11回TKOでタイの挑戦者を退け、初防衛に成功した。いよいよ、八重樫の試合だ。
リング上でロマゴンと対峙する。ハードパンチを想像していたが、そうではなかった。
「あっ、これはいけるかもしれない」
距離をとり、左ジャブを放つ。右ストレート、左フック。だが、当たっている感触がない。パンチの力を逃すのが巧く、気がついたら距離を潰され、目の前にロマゴンがいた。「えっ、もういる」。そう思った瞬間、パンチを食らっていた。
3回。ワンツーでペースを握り、大きな左フックを放つ。そこに小さく打ち抜く左フックが飛んできた。ダウン。だがすぐに立ち上がった。
初めての感覚「ロマゴンの恐ろしさ」
八重樫はこれまで経験のない感覚を味わっていた。ロマゴンはボクシングを熟知している、そう伝わってきたのだ。まるでもう一人のロマゴンが天から試合を見ているかのように、自分の立ち位置を把握している。しかも八重樫がパンチを打ち込んでも、相手の表情は一切変わらない。淡々と打ち返してくる。
バン・バン・バンと続くロマゴンの連打。もうコンビネーションが終わったと思っても、さらに、バン・バンと飛んでくる。パンチのつなぎ目がないのだ。
「ロマゴンは追撃がしつこいんです。そこは尚弥と似ていますよね。もう終わりかな、と思ってもまだ飛んでくる。打ち終わりにカウンターを取ろうと思ったところに、またバン・バンと来る。あれは巧さですね」
「おう、やってやるよ、こいよ」
八重樫は被弾しても打ち返した。怖かったはずが、次第に楽しくなってくる。表情が柔らかくなり、笑みが漏れた。