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現役ドラフトで移籍の佐々木千隼が「人目もはばからず泣いた夜」牛タンを手に部屋を訪れたのは…「お兄さんみたい」朗希も慕う右腕の旅立ち〈ロッテ→DeNA〉
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/11 06:00
現役ドラフトでベイスターズに移籍する佐々木千隼
今でもその時のシーンは鮮明に思い出される。打たれたのは決め球の一つであるシンカー。丁寧に投げてストライクゾーンとボールゾーンのギリギリに落としたがうまく拾われライト前に持っていかれた。
「悔しい1球でした。もちろん、“たられば”は言えないのですが、あえていうならもっとボールゾーンに投げることが出来ていれば、と思います。それこそワンバウンドになるぐらい。それくらいの開き直りが必要だったかなと今は思います」
失意の千隼の元を訪ねたのは…
仲間たちは涙する佐々木千隼を優しく包んでくれた。誰もが知っていた。ここまでチームが優勝争いをできていたのは、背番号「11」の奮闘あってこそだということを。54試合全てで中継ぎで登板し、8勝、防御率1点台でチームを支えてきたのだから。
宿舎では食事会場には行く気にはなれず、自室にいると田中靖洋投手(現ストレングストレーナー)と唐川侑己投手が部屋を訪ねてきてくれた。両手にはテイクアウトで買ってきた大量の牛タンがあった。3人で話をした。野球の話をした。とりとめもない話もした。寝られないと思っていた夜だったが、先輩たちの気遣いで傷を少しだけ癒すことが出来た。忘れられない出来事。あの日の悔しさを、その後も糧にしてきた。
現役ドラフトでベイスターズへの移籍が決まった翌日も同じようにZOZOマリンスタジアムのウェート場で黙々とトレーニングをする姿があった、選手たちが続々と挨拶に訪れ、別れを惜しんだ。佐々木朗希投手の姿もあった。同じ苗字ということもあったが、いつも優しい千隼のことを兄のように慕っていた。朗希は「ありがとうございました」と頭を下げると、スマートフォンで20枚以上も写真を撮り、別れを惜しんだ。先輩に可愛がられ、後輩に慕われる、そんな選手だった。