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「ばかやろう、何やらせているんだ!」井上尚弥の世界戦で大橋会長が激怒…ジャッジの胸を打った「必ず無事にリングから降ろす」ことへの思い
posted2023/11/17 11:07
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
河野公平の激しいダウンに“殿堂入りレフェリー”は…
佐野友樹vs.井上尚弥から約3年半が過ぎた、2016年12月1日のことだった。
中村はWBO本部からのメールを受信した。
「12月30日、有明コロシアムの興行に出られますか?」
世界戦のレフェリー・ジャッジの打診を受けた。既に、WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ、王者・井上尚弥vs.挑戦者・河野公平の試合が発表されていた。
井上は約3年半で大きく飛躍を遂げた。WBC世界ライトフライ級、WBO世界スーパーフライ級と世界2階級を制し、これが4度目の防衛戦。
中村がWBO本部に「大丈夫です、出られます」と返信すると「レフェリー、ジャッジ、スーパーバイザー」が記されたアサインメントシートと呼ばれる割り当て表が送られてきた。
「JUDGES(ジャッジ)」の欄に「Katsuhiko Nakamura」と明記されていた。
「デビュー戦、佐野戦とレフェリーをやらせてもらったでしょ。巡り巡って世界戦のジャッジ。とても光栄なことだなと思いましたね」
この試合、中村には忘れられないシーンがある。
5回、挑戦者が初めて攻勢に出て、会場の雰囲気が変わりつつあった6回。河野がコーナーに井上を追いやったその瞬間だった。王者は下がりながらの左フックでダウンを奪った。
「私のジャッジ席は河野選手が倒れた目の前だったんですよ。頭をドーンと打つ、すごく激しい倒れ方で、まるで私の目の前に落ちてきたようなダウンだったんです。それまでの(井上優勢の)試合展開もある。これはカウントアウトだなと思ってレフェリーを見たんです」
主審は殿堂入りしている米ラスベガスの看板レフェリー、ロバート・バードだった。リングをリズミカルに動き、中村の目には「見栄えがするレフェリーだな」と映っていた。