猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックス・宇田川優希が明かす「涙の降板」の“その後”…ゴンザレスのハグ「お前のせいじゃない、俺のせいだから」「由伸との絆」〈日本シリーズ秘話〉
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2023/11/08 11:02
第5戦で登板し、阪神に逆転を許し涙する宇田川(中央)。ベンチに戻るとチームメートが次々に温かい声をかけた
今季の宇田川は苦しんだ。昨年は、7月末に育成から支配下登録され、150km台後半の重量感ある剛速球と2種類のフォークを武器に打者を圧倒し、チームの日本一に貢献。今年3月のWBCにも選出された。
だがWBC球への対応に苦心し、大会後は逆に、WBC球に対応した投げ方からNPB球仕様にうまく移行できず、本来の力強いボールを取り戻せない。二軍でも打ち込まれ、ベンチで涙したこともあった。
「もう自分の球を投げられないんじゃないかと、怖かった」
そんな時、一軍練習に呼ばれた。WBC球を扱ううちに、滑らないようにと微妙にフォームが小さくなっていたことに気づいた中嶋監督から、「大きく腕を振れるようになるから、キャッチボールからカーブを投げてみろ」とアドバイスをもらった。そうした周囲の助言やトレーニングにより、徐々に状態を上げていった。
今季初の3連投
シーズン終了後は、CSまでの約10日間で体を徹底的に作り直しフォームも修正。打者を威圧する剛速球が復活し、自信も取り戻した。日本シリーズではそれまで2、3、4戦に登板し、阪神打線を抑え込んでいた。
第5戦で投げれば、オリックスで今季初の3連投となる。「基本(回の)頭から投げることはない」と伝えられており、行くとすればランナーを背負ったピンチの場面。その場面が巡ってきた。
「体の状態は悪くなかった」と一切言い訳はしなかったが、制球が定まらない。第4戦までは浮き上がるストレートで空振りを奪ったが、この日は高めに要求されたボールが低めに。森下翔太への7球目も、見逃せばボールになる低めのストレートをうまく捉えられた。打球は左中間を破り、ランナー2人が帰って2-3と逆転された。
「打たれて、本当に申し訳なくて…」
宇田川はガックリと膝に手を当ててうなだれた。
「三振を求められている場面だったのに。監督の期待に応えられなかった」
続く4番・大山悠輔にフォークをセンター前に運ばれ2-4とされると、悔しさで涙があふれた。
「火消しがその日の僕の仕事だというのはわかっていたのに、いきなり火消しに失敗して、追加点まで取られて……。本当にチームを救いたかったし、負けたくなかったのに、打たれて、本当に申し訳なくて、みんなの顔も見られなかった」
自分が出したランナーではないし、失策も絡んでいる、自分のせいじゃない、と割り切れればいいが、真正面から受け止めてしまう純粋な性格だ。