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「シーズン中なら絶対やらんやろ」阪神・岡田彰布監督の独断は流れを変える一手に?「ここは湯浅にかけるしかないと」《サヨナラ劇の伏線》
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2023/11/02 15:17
日本シリーズ第4戦、8回のピンチをしのいだ阪神・湯浅京己が渾身のガッツポーズ
6月15日、湯浅は同じ甲子園球場でのオリックスとの交流戦で、2本塁打を浴びて逆転負けを喫し二軍落ち。7月には左脇腹を痛めて、ついに一軍復帰できないままにシーズンを終え、ポストシーズンに突入してしまった。
その右腕を岡田監督は、1勝2敗と劣勢に立たされた局面で一軍に呼び寄せ、ある意図を持ってぶっつけ本番でマウンドに送り出したのである。
「湯浅がベンチに入っとることも知らんファンは多かったんちゃうか」
そんなファンに向けて、湯浅への交代が場内放送で流れた。
その瞬間、甲子園球場が一瞬、どよめき、そして次には大歓声に包まれた。この交代が球場全体のムードを一変させる。それが岡田監督が窺っていた湯浅投入という勝負手の狙いであり、「シーズン中なら絶対にやらん」起用法だったのである。
勝負はたった1球だった。
「久しぶりでしたけど、ファンの歓声もすごくて、自分の投球もできた。みんなで繋いであそこを0で抑えたら、流れが来ると思って、絶対に抑えようと。ファンの力を借りて投げられました」
こう語った湯浅が低めに投じた149kmの真っ直ぐに、中川のバットが押し込まれる。詰まった飛球が二塁に上がり、右手の拳を握った湯浅が雄叫びを上げた。
岡田監督が独断は流れを変える一手に?
勝負が勢いの、流れのやり取りだとすれば、この一手で岡田監督は、その勝負の流れをぐいっと引き寄せたことになる。そしてここで掴んだ流れが、最終回のサヨナラ劇の導火線となっていった。