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甲子園の風BACK NUMBER
真鍋慧の視察でビックリ発掘→ドラフト指名…無名公立校「まさかプロ野球選手が出るなんて」スカウト対応も初めてだった“現場ドタバタ劇”
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph byKota Inoue
posted2023/11/02 06:01
島根の公立校・三刀屋(みとや)からプロ野球選手が誕生した。その舞台裏とは
三刀屋が登場したのはこの日最終の第2試合。直前の第1試合を戦ったのが、広島代表の広陵だった。“広陵のボンズ”と呼ばれ、この世代の中国地区をけん引する存在と目されたスラッガー・真鍋慧を追うべく、多くのスカウトが球場に集結していた。通常、スカウトたちは目当ての選手の試合が終わった後は、その日に予定されている最終試合の終了まで球場に残ることは少ない。先発投手と各打者の1打席目を見て、自身の琴線に触れる選手がいないと分かれば、球場を後にするからだ。言い換えれば、第2試合を戦った髙野にとって、第1打席が“最初で最後”のアピールチャンス。それを見事にものにして、ドラフト候補にのし上がったわけだ。
スカウト「髙野くん、楽しみですねえ」
髙野が一発回答を出したことで、スカウトたちは帰り支度をやめ、ゲームセットまで見届けた。そして、取材を終え、球場を後にしようとしていた國分監督を訪ねる。ある球団はユニホームのデザインを模し、また別の球団はチームロゴが目立つようにホログラム仕様にしている色とりどりの名刺を手渡し、一言。
「髙野くん、楽しみですねえ。ぜひ今度練習も見に行かせてください!」
ここから、監督人生で経験したことのない激動の日々が始まった。
三刀屋の野球部専用のグラウンドは、徒歩圏内ではあるが、学校から若干離れたところにある。スマートフォンの地図アプリではピンポイントで案内されないため、初めて訪れる者は、チーム関係者に電話で道案内を頼むのが常だ。
遠方から来るスカウトに…「ありがたいやら、申し訳ないやら」
このグラウンドに、代わる代わる全球団のスカウトが訪れ、髙野の一挙手一投足に熱視線を送った。國分監督が回想する。
「中国地方担当と言っても、自宅が関西や関東にあるスカウトの方も少なくなくて。遠いところから島根の学校まで来てくださって、ありがたいやら、申し訳ないやら。練習の視察も、練習メニューとは別に髙野を個別に見られる方もいれば、『いつも通りの姿を見たいので』と、全体練習を見る方もいる。人それぞれのスタンスがありました」
近年のドラフトにおいて、常々「市場価値が高い」と言われる右の長距離砲である髙野。スカウトたちは、「春が楽しみですね。また試合を見に来ます」と言い残した。が、春を前にした2月に、左手の有鈎骨の疲労骨折が発覚。3月初旬から再開される対外試合への出場が難しくなった。それはドラフト指名に向けた重要なアピールチャンスを失ったことを示していた。