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「最後は父に土下座しました」177cmの元家庭科教師レスラーと“家族の約束”「3年で芽が出なければ…」レディ・Cの知的でダイナミックな可能性
posted2023/10/24 11:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
スターダム所属の女子プロレスラー、レディ・Cは2020年11月14日にデビューした。もうすぐ3周年。キャリア3年はレスラーにとって一つの節目になる。
たとえば東京スポーツ制定のプロレス大賞では、新人賞の対象がデビュー3年以内。スターダムの新人王座であるフューチャー・オブ・スターダムの保持条件もキャリア3年未満(もしくは20歳以下)となっている。
レディは、つまり若手や新人といったカテゴリーではなくなるわけだ。それにもう一つ、キャリア3年は「父との約束」の期限でもある。
「父に土下座しました」家庭科の教員からプロレスラーに
レスラーになる前は教員だった。科目は家庭科。教えることは好きだったがとにかく忙しい。
「終電で帰って始発で学校に向かうような生活でした。残業は(過労死ラインの法的な基準とされる)月80時間を超えてましたね」
激務の中、救いになったのがプロレス観戦。スターダムのワークショップに参加したことで自分もプロレスラーにという願望が強くなった。だが両親、特に父には猛反対された。確かに、教員という安定した職業を捨てることに賛成する親は少ないだろう。プロレスはケガの心配もあるし“怖い”、“野蛮”というイメージも付きまとう。
「親はプロレスを見る人ではないので。最後は父に土下座しました。“プロレスは今しかできない。3年やって、それで芽が出なかったら、その後も続けるかどうかあらためて考えさせてください”と」
プロレスラーになってから、折に触れてそのことが頭をもたげた。「私の人生だから勝手にさせて」と家を出る選択もあったはずだが、それはしたくなかったという。父との約束をなんとなく有耶無耶に、とも思わなかった。やるからにはキチンとやりたい。みんなに認められてプロレスラーとしてのキャリアを重ねたい。そういう性格なのだ。
「負けてばかりじゃないか、という声もあって…」
何をもって「芽が出る」とするのかは人によって違うだろう。業界最大の女子団体であるスターダムのレギュラー選手というだけで立派なものだという考え方もできるはずだ。 177cmの長身はどの会場でも目を引く。顔面へのキックや河津落とし、チョップ、ジャイアント・バックブリーカーといった技はジャイアント馬場を意識したもの。“馬場さんの技を使う177cmの元教師女子レスラー”は話題になって当然だ。トップ選手の岩谷麻優は「化ける」と太鼓判を押した。実際、試合ぶりはよくなっている。
岩谷は「1年以内に化けます」と言っていた。だがそれから2年が経とうとしている。成長しているのは間違いないのに“大活躍”、“化けた”とまではいかない。