球体とリズムBACK NUMBER
冨安健洋「自分の役目だと」超万能の成熟が24歳に見えない…「トミはまるで左ウイング」アーセナル智将絶賛、日本代表DFの要は魅力だらけ
posted2023/10/18 17:20
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Naoki Morita/AFLO
気がついたら、背番号16の動きにずっと目を奪われていた。
普段から現場のスタンドでフットボールを観る時、中継の画面に映らないところを注視するようにしている。つまりボールの周辺以外だ。それでこそ、スタジアムに来た甲斐があると思えるし、そこにこそ、なにかヒントが隠されているような気がする。
地上も空中も抜群のデュエル、パワーとスピードを兼備
10月17日に日本がチュニジアを迎えたノエビアスタジアム神戸でも、そんな風にピッチを眺めていた。主導権を握ることの多い最近の日本代表の試合なら、自ずと最終ラインに目を向ける時間が長くなるわけだが、この日は前半の途中から、冨安健洋の獅子奮迅のパフォーマンスから目が離せなくなった。
常に集中力を研ぎ澄ませ、周囲に目を配り、味方に指示を与え、然るべき時に一気にラインを上げる。地上も空中もデュエルの強さは群を抜き、パワーもスピードも相手攻撃陣に彼と比肩する者はいなかった。
そんな冨安を中心に堅守を築いた日本はこの日、チュニジアにシュートを1本しか打たせず、5試合ぶりにクリーンシートを達成し、6連勝。昨年6月に0−3で敗れた相手に、2−0のスコア以上の完勝を収めた。
「試合前から、みんなでクリーンシートを達成しようと話していたので、それができたのは大きな成果だと思います」と試合後に、福岡県出身の24歳の守備者は話した。この日のミックスゾーンで、もっとも多くの記者を集めていたひとりだ。通常、得点者にメディアは群がるものだが、この日は冨安にたくさんのジャーナリストが惹かれていた。
冨安自身が意識している「自分の役目」とは
そのうちのひとりが、「最近の冨安選手からは、チームを牽引する意識がすごく感じられるのですが」と訊いた。個人的にも強く同意するところだ。
「うーん、特に意識はしてないですけど……」と冨安は返答した。以前に色々としつこく質問したことがある身として、こういうのは彼の照れ隠しみたいなものだと勝手に受け止めている。そして少しずつ本音が出てくることもある。