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3球団から調査書、巨人スカウトも直撃に「伸びしろがある」…プロ注目のスラッガー佐藤啓介が“国立・静岡大”を選んだワケ《名門・中京大中京出身》
posted2023/10/24 06:00
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
異色の経歴だ。
育成選手制度の導入で間口が広がったこともあり、国立大でプレーする選手がドラフト指名されることは松田亘哲(名古屋大→中日)や水口創太(京都大→ソフトバンク)など、さほど珍しくなくなった。だが彼らはいずれも進学校の出身で、全国的に名が知れ渡る野球の強豪校でプレーしていたわけではない。
しかし、静岡大の強打が持ち味の二塁手・佐藤啓介は、全国最多となる甲子園春夏通算11回の優勝を果たしている超名門・中京大中京高の出身だ。同校であれば、プロを目指す選手は中央球界の名門校や系列の中京大に進むのが一般的。だが、佐藤はそれを選ばなかった。
にもかかわらず、現在プロ志望届を提出した佐藤の元にはすでに複数球団から獲得の可能性があることを示す調査書が届く「ドラフト候補」にまでなっている。
そこに至るまでには、どんな経緯があったのか。
10月1日に静岡県清水庵原球場で行われた静岡大対日大国際関係学部の2回戦。観客がまばらなスタンドで巨人の人気選手だった2人は最後列にいても目立った。静岡学生リーグを担当する木佐貫洋スカウトと水野雄仁スカウト部長だ。同リーグでもう1人ドラフト候補に挙がる大型右腕・杉田健(日大国際関係学部)は前日に登板しており、この日のお目当ては明らかに佐藤だった。
佐藤はこの日、第1打席でレフトへの犠牲フライを放って先制点を挙げると、第3打席には痛烈な当たりで一、二塁間を抜くライト前安打を放ってチャンスメイク。その後2点目のホームを踏んだ。
巨人スカウト「伸びしろもあると思います」
するとこのイニングの攻撃を見届けて、巨人の2人は席を立ち帰路へ。そこで水野スカウト部長を直撃。「ご覧になったのは何回目ですか?」という質問には「それは言えないな」と笑みを浮かべて躱されてしまったが、印象について聞くと「しっかり振れるし体に力がありますね」と評価。「伸びしろもあると思います」と将来性を感じ取るコメントを残した。
この言葉に偽りはなく、佐藤のもとには既に巨人から調査書が届き、加えて広島、日本ハムからも調査書が届いている。
佐藤の持ち味はやはり力強い打撃だ。その魅力がこの試合で最も明確に表れたのは第4打席だ。相手投手の球を鋭く弾き返すと打球はグングンと伸びて逆方向で最も深い左中間へ。あわや本塁打(本塁打ではないかとの抗議が静岡大からあったほど)というフェンス最上部直撃の二塁打を放った。