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「半分は勇気がなくて、半分は私をなめていた」《MGCで大逃げ》36歳・川内優輝の“プロ根性”…独走劇後に明かす五輪切符じゃなかった「本当の狙い」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byAsami Enomoto
posted2023/10/16 17:05
豪雨の悪条件の中、35kmまで先頭を独走したベテラン・川内優輝。レースを盛り上げた百戦錬磨のランナーが伝えたかったことは…
「35kmまで追いつかれないとは思わなかった。ちょっとびっくりですね。さすがにハーフ地点ぐらいで追いつかれると思ったんですけど……。正直、30kmを過ぎても追いつかれなかった時は、『これはワンチャンスあるんじゃないの』って思いました」
1km3分前後のラップを刻んでいた川内は、17kmあたりから少しペースダウンしたが、それでも後続の集団よりも速かった。ハーフの通過は1時間3分33秒。単独走にもかかわらず、自己ベストを出した時よりも14秒遅いだけ。川内は絶好調だった。
「若い選手が多いから、たぶん半分ぐらいは勇気がなくて、私に付いていくのが怖かったんだと思います。もう半分ぐらいは私をなめていたんですよ。あんなロートル選手はどうせ落ちてくるだろう、って。だから、『なめんなよ』って思いましたね。だって、私は逃げ切って優勝しているレースもいっぱいあるわけですから。そんな私を逃しちゃっていいの? って思いました」
川内の”飛び出し”にかき回された有力選手たち
記録ではなく、着順を競うのがMGC。走り終えた選手に話を聞くと、有力選手の多くが大迫傑(Nike)をマークしていた。川内が言うように“いつか落ちてくるだろう”という思いが彼らにはあったのだろう。
だが、25kmの時点で、川内と2位集団との差は42秒に開いていた。「40秒を超えたら、本当に地力がないと追いつけない」と川内が言うように、2位集団が一気にペースアップした時に、川内を追える力を残していた選手は数人しかいなかった。
「世界のレースは30kmから一斉にヨーイドンですから、今日の小山(直城)選手や大迫選手のような走りの強化版ができないと絶対に勝負になりません。それができないんだったら最初から行くしかない。だから、若い選手にはもっと勇気をもって頑張ってほしいと思いますし、海外にどんどん出ていって経験を積んでほしいと思います」