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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「ジャパンが出た方が面白かったかも」が一変…ラグビーW杯、日本代表が負けた後の準々決勝が“神回”だった《フランス現地記者は見た》
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/16 17:23
ラグビーW杯準々決勝。ニュージーランドに24-28で敗れ、アイルランドの「顔」ジョナサン・セクストン(38歳)は息子と場内を歩いた
アルゼンチンの大ベテラン、34歳のニコラス・サンチェスが、ウェールズのバレバレのループによるアタックを読み切って、インターセプト。出場してからまだ10分も経過していないフレッシュな足で走り切った。
この瞬間、マルセイユは爆発した。正確にいえば、アルゼンチン人が爆発した。
実は、後半に入ってからアルゼンチン・メディアはみんな立ち始めていた。神経を削られるような展開に座っていられなくなり、机は叩くし、頭は抱える、あらゆる感情表現を繰り出していたのだが、勝利を決定づけるトライに、あたりかまわず抱擁、ダンス、奇声が飛びかい、ついに私も巻き込まれた。
ナントの日本対アルゼンチン戦前のトラムで知り合った記者に首に腕を回され(彼はRugby Lineというニュースサイトの記者)、「お前も俺たちの仲間だ!」と喜びの輪に入れられてしまった。
「日本戦は“調子を上げ始めた”アルゼンチンだった」
アルゼンチンの監督、マイケル・チェイカの記者会見は、いつも勉強になる(ためになるという点では、ふたりのオーストラリア人、エディー・ジョーンズとチェイカが双璧だ)。
チェイカはW杯期間中のチームビルディングについて話した。開幕週、イングランドに負けてから、もうひと月以上が経っている。
「チームにラジカルな転換があったわけではない。われわれは試合から学び、次の試合に向けて成長をしていくだけなんだ。ずっと右肩上がりというわけじゃない。アップとダウンがある。W杯では、試合の順番によってどのようにチームを組み立てていくのか、プランを練る必要がある」
そしてイングランド戦は、万全の準備をしたわけではなかったと明かした。
「Lightな、軽めの準備だったといえる。大会前のビルドアップの時期に、それほど試合が組めなかったという事情もあるし、イングランドとの試合は初めてW杯でプレーする選手も多かった。あの試合から学ぶことは多かったけれど、忘れて欲しくないのは、イングランド戦は計9本のPG・DGを許しただけで、トライを与えていなかったという事実だ」
やはり、W杯は通しで見ないと分からないのだ。日本は、ちょうど調子を上げ始めたアルゼンチンと対戦したんだな――という思いが頭をよぎった。
「ホテルが3万円台なら◎」フランス物価事情
準々決勝②【パリ ニュージーランド28―24アイルランド「Phase37」】
夜9時キックオフの世界が期待する一戦――Mくんがピッチにいる――この試合は、エクス=アン=プロバンスの宿で見る予定だった。ところが――。日曜にプロバンスからマルセイユに戻るTER(ローカル線みたいなもの)がストライキで運休するというメールが試合中に入っていた。
遅延、大遅延と来て、今度はストかよ。
やはりマルセイユは鬼門である。
宿を急遽キャンセルし、マルセイユの宿を探す。なんと、スタジアムの前のビジネスホテルが3万円台で出ていた。相場価格じゃないか。