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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「スパイク、打たせてください」と監督に直訴も…バレーボール日本代表の「初代リベロ」西村晃一が歩んだ“異端”の道〈セリエAドタキャン →ビーチ転向〉
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byKoichi Nishimura
posted2023/10/12 11:02
50歳にして現役選手として鍛錬を続ける西村晃一
身長175cmはバレーボール選手にとって、とりわけトップレベルで戦う上では絶望的に低い。それでも、ハンディキャップに悲観せず、ひたすら前だけを向いた。駆け出して、宙を舞い、急角度でスパイクを振り下ろす。長身選手をしのぎ、人一倍、高い跳躍は際立ち、誰もが目を奪われた。西村が跳ぶと、まるで空中で一瞬、止まっているように映った。
「痛くなりたくなかったら跳べよ」
高く跳ぶ――。バレーボーラー西村の生き方を示す言葉である。小学4年からバレーを始め、その面白さの虜になった。体は小さい。でも、勝ちたい。西村少年が考えたのが高く跳ぶことだった。体育館を見渡し、格好の練習場所を見つけた。舞台だった。思い切りジャンプするのを日課にした。最初は届かない。脛が舞台の角に当たり、血まみれになり、あざが絶えなかった。
「痛くなりたくなかったら跳べよ」
そう自分に言い聞かせた。小学生にして、驚くほどの意地っ張りだった。いつしか、自分の人生に欠かせない言葉になっていた。
誰よりもバレーボールの本質を考え抜いてきた。中学時代は風呂に砂を入れたペットボトルを持ち込むのが日課だった。腕を伸ばしたままで約1000回、手首だけを動かした。リストの強化に明け暮れたのは、スパイクの高い打点を維持するためだった。
バレーのスパイクは空中で打つ姿勢を作る時、弓を引くようなポーズで肘を曲げる。だから、誰もが当然の動作として繰り返す。だが、西村はそこに着目した。なるべく肘を曲げず、腕を伸ばしたまま、手首だけで打てれば、打点は下がらないのではないか。低い身長を補うための工夫である。スナップだけを利かせてスパイクを打てるようにする。ペットボトルの砂は大きい選手に勝つための知恵だった。