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育成から一軍昇格も「悔しい思いの方が大きかった」…苦節5年、DeNA宮城滝太23歳が“初の一軍”を大喜びしなかったワケ
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph bySankei Shimbun
posted2023/09/25 11:06
2019年育成ドラフト1位で入団、今年8月に1軍デビューを果たした宮城滝太。これまで、あるベテラン左腕の影響を大きく受けてきたという
「健二朗さんの影響は大き過ぎるぐらいですよ。経験値はもちろん、日ごろの練習の取り組み方など参考になりますし、知識も豊富。誰が見ても健二朗さんは、すごいって思うはずですよ。あと小学生のときに教わった人と同じタイミングで、初めて一軍に上がれたというのもすごくうれしかったですね」
当の田中はどう評価している?
当の田中は、宮城のことをどのように評価しているのだろうか。田中に訊いてみると「野球教室のことはさすがに覚えてないですよ」と言って笑った。
「非常に向上心の高いピッチャーですよね。本当にぐいぐい来るんです。『一緒にキャッチボールしてください!』とか『このボールはどうやって投げるんですか?』とか『どんな練習しているんですか?』と、訊いてくることがすごく多い。貪欲というか、訊くことでなにかひとつでもモノにできるものがあれば、という姿勢が見えるのはいいところですよね。あとはマウンド度胸がめちゃめちゃある。まだ若いし、これから一軍で投げていけば壁にぶち当たることもあると思うけど、経験を重ねることでボールの精度やピッチングの幅は広がっていくでしょうし、それができるピッチャーだと思うので、これからが楽しみですよね」
育成、高卒ピッチャーの道を切り拓く
現在クライマックスシリーズへの進出を懸け戦っているDeNAにあって、宮城はまだビハインドでのピッチングが中心だ。しかし向上心の塊である右腕は、現在と未来をしっかりと見据えている。
「今はとにかく与えられた場面で、1人目からしっかりと腕を振っていくことだけです。ただゆくゆくは、自分はリリーフというポジションが好きなので、勝ちパターンに入れるようなピッチャーになりたいと思います」
若き選手の台頭は、いつだって観ている者をワクワクとさせるものだ。
「チームのためにも若手がどんどん出て行かないといけないと思いますし、とくに高卒のピッチャーがあまりいないので、自分がその状況を切り拓いて、道を作っていきたいと思っているんです。ファームで頑張って成長できれば、一軍でもできるんだよって姿を見せていきたいですよね」
高卒投手のパイオニアとなるべく、これから宮城がどのようにして存在感を高めていくか楽しみだ。「ようやくスタートラインに立てた感じですね」と伝えると、宮城はかぶりを振った。
「いやまだ、スタートラインにすら立っていない感覚ですよ」
謙虚に、ただひたすらに。決して衒うことなく、そう真摯に返す宮城からは、頼もしさしか感じられなかった。