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「練習は“あの”東尋坊の崖からダイブ」「競技人口は日本で1人だけ」…“27m=ビル10階から飛び降りる”ハイダイビング日本代表・荒田恭兵とは何者か?
posted2023/07/27 11:00
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
AFLO
「人と変わったことをするのが好きだったんです」
それだけの理由で打ち込んでいた空手から、小学4年生で飛込競技という全く関係のない世界に飛び込んだ。そして、気がつけば10年後には日本一になっていた。それでも当初の気概は変わらない。今度はアジアでは誰もやったことがないエクストリームスポーツの世界に没入していく――。
それが荒田恭兵という男である。
荒田がチャレンジしている「ハイダイビング」という競技をご存じだろうか。
元々はクリフダイビングという名前で、レッドブルが主催となってワールドシリーズが行われたことで有名になった競技でもある。競技内容はその名の通り、世界各地の有名な崖や峡谷などから高飛込を行い、獲得した総合ポイントで年間チャンピオンを決めるものだ。
当初は元体操選手や飛込競技の選手たち、またはスタントマンを生業にしている人など、多様な世界で活躍する人たちが集まって行われていた。一方で、最近ではクリフダイビングだけで活動する選手も多く、世界中に多くのファンを有し、特異な魅力に引き込まれる人が続出するスポーツなのである。
「ビル10階の高さ」から飛び込むハイダイビング
世界水泳では、2013年のスペイン・バルセロナ大会から「ハイダイビング」と称して正式種目となった。男子は27m、女子は20mの高さの台から水中へと飛び込む競技だ。「高い所から飛び込む」という飛込競技の一部ではあるものの、男子の27mの高さというのはビルの10階と同じ高さだ。当然、命の危険もある。そのほかの種目とは根本的に一線を画す競技として話題を集めていた。
この超人的な種目に、日本でただ一人チャレンジし続けているのが荒田である。
荒田はもともと飛込選手として名を馳せ、日本体育大学時代の2017年の日本選手権では10mシンクロ種目で遠藤正人とコンビを組み、日本一にも輝いている実力者だ。
大学卒業後は五輪を目指すか、そのまま引退して就職するかを迷ったという。
「どちらも誰かが進んだことがある道。それはちょっと面白くないな」
そんなことを考えていた時、目に入ったのが海外選手によるハイダイビングの競技映像だった。同競技には日本人選手がひとりもおらず、それはまさに「誰もやったことがない」挑戦だった。荒田はすぐに飛込競技からの引退と、ハイダイビング選手への転向を決意した。