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ついに壊れたホンダエンジン「経験したことのないトラブル」でレースを失った角田裕毅が泰然自若としている理由
posted2023/09/06 11:02
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
ヨーロッパラウンドを締めくくる一戦、イタリアGPの舞台であるモンツァ・サーキットは、ラップタイムの77%、全長の80%でアクセル全開という現在のF1の中で最もパワーユニット(PU)に厳しいコースだ。
そのモンツァでホンダのエンジン(内燃機関=ICE)が壊れた。
9月3日の日曜日、午後3時にフォーメーションラップがはじまり、全車が自分のグリッドを出て、1周だけのウォーミングアップを行う。タイヤを温めるためにウェービングし、ブレーキに熱を入れるために加減速する。アクセルをほとんど全開にすることのないこのフォーメーションラップ中、11番グリッドからスタートした角田裕毅のアルファタウリに搭載されているPU「ホンダRBPT」から異音が発生した。
「ギアボックスかエンジンかわからないんですけど、後ろの方から変な音がした」と言う角田。しばらくすると振動も起き出し、さらにアクセルを踏んでも、パワーが感じられなくなった。
「何かが壊れたことは明らかな状態だったので自分の判断でクルマを止めました」と、角田はバックストレートでマシンをコース脇の芝生の上に止め、レースへの出走を断念した。
「スタートで履く予定にしていたミディアムタイヤで、できるだけピットストップを延ばして、その間に上位陣との差を縮めて、逆転する予定でした。金曜日のフリー走行でミディアムでいいペースで走っていたので、おそらく可能だったと思うだけに残念です」
今シーズン初めての深刻なトラブル
HRCの折原伸太郎GM(トラックサイドゼネラルマネージャー)は次のように語る。
「データを見る限り、エンジンが壊れてしまったようです。こういうトラブルは経験したことがなかったので、まだ何が起きたのかわかりません。戻ってきたクルマを見て、それからHRC Sakuraに戻して慎重に解析したいと思います」
今シーズンのホンダRBPTには、アルファタウリ、レッドブルとも、走行中に止まってしまうような深刻なトラブルは起きていなかった。
また、アルファタウリは今回、角田に4基目となる新しいPUを投入していた。今シーズンのF1はレギュレーションでPUの年間使用基数が4基までとなっており、1基あたりの耐久・信頼性の目安は6戦前後となっていた。それにもかかわらず、1戦目のレーススタート前にエンジンが壊れるという事態はドライバーにしてみれば、不運としか言いようがない。
しかも、角田の1つ後ろの12番手からスタートしていたチームメートのリアム・ローソンが11位でフィニッシュしていたことを考えれば、予選11番手の角田がポイントを獲得する可能性は高かった。折原GMも「角田選手には非常に申し訳ないことをしました」と頭を下げるしかなかった。