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井上尚弥、フルトン戦を自ら語る!「あれ、こんなもん」と思ったけど、“一つだけ想定外”だったこと「10回くらい踏まれましたから」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/02 11:04
階級をあげて臨んだフルトン戦で8回TKO勝利をおさめた井上尚弥。自らが解説するあの試合のこと
「去年9月、ロサンゼルスでWBA1位で、今年2月にルイス・ネリとWBC挑戦者決定戦をやった選手(アザト・ホバニシャン)とスパーリングをしたんです。そのとき相手のセコンドにフルトン陣営の人が入っていたんですよ。そのスパーはけっこう打ち合って、自分がフィジカルで押されるシーンが何度かあった。それを見られていることを知っていたから、フィジカル勝負をしてくる可能性は十分にあると思っていました」
井上は加えてフルトンが徹底したアウトボクシングに打って出ることも、中間距離で戦うことも想定していた。それはフルトンが「どのパターンでも戦える選手」だからだ。結果的にフルトンは中間距離で井上と対峙するという選択をした。
チャレンジャーは試合開始のゴングが鳴ると、用意していたL字ガードで構えた。
「L字で重心を後ろ気味にするとは決めていました。これだとお互いの距離が遠くなる。自分も遠くなるし、フルトンも遠くなる。その中でどうやって当てていくか、というスタートだったんですけど……」
意外だった「フルトンの距離感」
肩透かしと表現すべきか。予想はいい意味で外れた。
「フルトンのジャブが全然伸びてこなかった。プラス、自分が頻繁に使ったボディへのジャブにまったく反応しなかった。ステップインにも反応できていなかった。う〜ん、意外でしたね。フルトンはもっと距離を操ってピピって外すのかなと。『なかなかジャブが当たらないな。距離が遠いな』と感じると思っていたんですよ」
過信せず、相手の力量を高く設定し、万全の準備を整える。井上は毎試合、そうやってリングに上がってきた。
「自分のパンチがそんなに当たらないだろう。そう思って練習するのは今回に限りません。前回のバトラー戦もそう。相手を過大評価して挑む。そういう気持ちを作って1カ月練習する。サンドバッグでもシャドーでも『パンチが当たらない。ならどうするのか。もう半歩踏み込むのか。誘い込んで打つのか』というふうにずっと考えながら練習するんです。だから実際の試合で、予想ほどフルトンのジャブが伸びてこない、自分のボディジャブが当たる、ということになると、気持ち的にだいぶ優位に立てました」
一つだけ、想定外だったこと
こうしてメンタルを作り、対戦相手を迎える井上だからこそ、試合後の周囲の反応には少し戸惑いを覚えるのだ。