「フルトンが思ったより強かった、という感想を聞くと、そういう人はどれだけフルトンを下に見ていたんだろうって思いますね（笑）。自分は逆でジャブ一つ当たらないくらいのフルトンを想定して練習してましたから。だから1ラウンド目に『あれ、こんなもん？』って思ったんです」

　相手を過大評価した井上の準備は初回から功を奏した。しかし一つだけ、想定外だったことがある。それは初回から何度も接触したフルトンの前足だった。

「フルトンの左足の位置にはちょっとビックリしました。長い脚を内側に入れるように出す。自分の足とぶつかるんですよ。1ラウンド目に自分が（足を踏まれて）つんのめるんですけど、サウスポーとやってるのかと思いましたから」

フルトンは左足を大きく前に出す変則スタイルで、井上は何度も足を踏まれたという　©Naoki Kitagawa

フルトンに「10回くらい踏まれました」

　右構え同士で前足がぶつかるとはあまり聞かないが、フルトンの過去の映像を見ると、右構えの相手と前足が接触するシーンが何度かある。井上にはそれが戦略的なテクニックだと思えた。

「フルトンはスタートから距離感、ジャブの差し合い、足の位置の3つを意識していたと思います。あの足の位置は脚が長いからできるんでしょう。ちょっと試合後にやってみたけど自分にはできません。映像で確認すると、フルトンは足の指先をちょっとずつずらしてこっちの足を探してるんですよ。で、こっちのつま先を見つけたらググっと踏んでいる。そうやって踏み込ませないようにしたり、集中力を切らせようとしたりしていたのかなと。反則ですけど、レフェリーが注意しなければそれもテクニックの一つですよね。わざとやってる？　分からないですけど、そうかもしれない。10回くらいは踏まれましたから」

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