――貴子選手の記さん（立野の愛称）好きは有名です。

貴子　記さんを見たときは、カルチャーショックで。いつもいつもやられっぱなしなんだけど、最後に急に勝っちゃったりする。この人の不思議な魅力は何だろうと思いながら観てたら、ファンになってて、「私の進路を見つけてくださってありがとうございます」という状況に（笑）。

アイドルレスラーの道へ「相当な反感を買って…」

――オーディションには、4度目の正直で合格したそうですね。夢にまで見た全女に入団できたはいいが、厳しすぎる現実に直面したのではないかと思いますが。

貴子　ほんとに、ねぇ……。最初のオーディションに落ちてからは、練習生として3年ほど全女のジムに通っていて、アマレスもやっていたので、プロレス周辺の事情はかなり知っていたんですね。いじめがあるとか、聞いてはいたけど、「私は免疫ができているから大丈夫」って自信があったんだけど、入った翌日に、「こんなとこではやってけない！」って（笑）。

――翌日!?

貴子　道場に新人が集められたんだけど、先輩のあいだではもう、「井上、生意気」みたいな噂が広まってた。できないことを怒られるのはもちろんいいんだけど、矛盾してても「はい」「すいませんでした」しか言えないのが、全女の新人。そのフラストレーションは、何年もあったかな。

1993年の豊田真奈美戦　©東京スポーツ新聞社

――ひがまれたことは？

貴子　ひがみはね、もっとあと。フジテレビと全女が組んでアイドルを作ろうというプロジェクトがはじまったとき、たまたま私がターゲットになったんですよ。プロレスがまだぜんぜん上手にできない時期だったので、私もある意味、被害者……なんだけど。でも、話はどんどん進んでいって、ポニーキャニオンも絡んで、写真集とビデオとCDの3点セットで売りますと。写真集も、カメラマンもヘアメイクも一流の人が用意されたから、中途半端なことが許されなくなった。こっち（全女）側の人たちからは相当な反感を買って、その板挟みにあいました。

20歳の苦悩「同期以外は口をきいてくれなくなった」

――当時、20歳ですね。

貴子　はい。デビュー3年までは下積みとされていたけど、私は2年でだんだんほかの仕事で忙しくなっていった。会場までは選手と一緒にバス移動しないといけないんだけど、私だけマネージャーの車で直接入りますとか。自分の試合が終わったら、すぐに出てほかの仕事をしますとか。撮影がハワイであるので、「何日か空けます」とか。そういうことを、いちいち謝りに行かないといけないんだけど、なんか自慢してるようで、それも嫌だなって。そしたら、口をきいてくれなくなった。同期以外は。

同期・井上京子（右）とのタッグ（1995年）　©東京スポーツ新聞社

――下積みを経験できなかった貴子選手もつらいですよね。

貴子　そうなの。だから、夜中に1人で道場に帰って練習してましたよ。誰もいない道場で。それを誰にも言わなかったから、知ってるのは（階上に併設されていた）寮に住んでいた人だけかもしれない。

――同期で風当たりが強かったのは、貴子選手だけでしたか。

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