核心にシュートを!BACK NUMBER
フィンランドが「絶対フリーにしたくなかった」“ある選手”とは? バスケW杯で日本代表大金星…大逆転の最終クォーターに何が起きていたのか
posted2023/08/28 17:02
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
FIBA
両チームのエースの攻防によって、勝負は決したかに見えた。
バスケットボール男子のW杯一次リーグ第2戦の日本対フィンランド戦。第3クォーター(Q)残り5分9秒のことだ。日本の精神的支柱であり、今大会のメンバー唯一のNBAプレーヤーでもある渡邊雄太がダンクシュートを狙いにいった。
しかし渾身の一撃は、フィンランド唯一のNBAプレーヤーで、世界のトップ選手の証であるNBAオールスターにも選ばれたラウリー・マルカネンによってブロックされてしまう。
直後のフィンランドの攻撃。今度はマルカネンが、空中でパスを受けると両手でそのままリングに叩き込んだ。バスケットボールの華、アリウープの完成だ。これで14点差。
そのショックは大きく、さらに点差は開いた。第3Q残り2分46秒、この試合最大となる18点のビハインドを日本は負うことになった。FIBAランキングでは日本より12ランクも上の24位で、近年飛躍的な成長を遂げているフィンランドとのこの点差は絶望的なものに見えた。
しかし——。
日本の勝利を信じている選手がいた。
「3Pシュートを打ち続ける」という日本代表のコンセプト
「とにかく、勝ちたい。その執念だけだったと思います。フィンランドはランキングでも僕たちよりはるかに上で『何回やっても(常に)勝てるような相手ではない』というのは僕たち自身がわかっていた。だから40分間、一つひとつのプレーに一喜一憂することなく、戦い続けました。自分たちの流れが来ることを信じて……」
絶望的に見えた流れについてそう振り返ったのは、22歳のポイントガード(PG)の河村勇輝だ。
そして、チームには河村と同じ年の22歳で、高校時代からしのぎを削っていた富永啓生という稀代のシューターもいた。
「自信をもって打つんだ。お前のシュート力が必要になってくるんだから」(馬場雄大)
「シュートを打ち続けてください!」(トム・ホーバスヘッドコーチ)
ドイツとの開幕戦で徹底マークにあい苦しんでいた富永は、周囲からそう声をかけられていた。それは富永の能力をみんなが認めていることに加えて、「積極的に3Pシュートを打つ」ことがチームのコンセプトだったからだ。
ホーバスヘッドコーチ (HC)が代表チームに求めたのは、ハードなディフェンスとハイペースの攻撃から3Pシュートを多用するオフェンスだ。現代バスケットボールの得点効率の統計学をもとに、彼は戦略を決めている。実際、同様の戦略で、女子の日本代表を東京五輪で銀メダルに導いた。そしてその功績を評価され、東京五輪後に男子の日本代表のHCに招かれており、その基本戦略がブレることはない。
裏を返せば、どれだけ苦しくても日本の選手たちはシュートを打ち続けないといけないということでもある。