甲子園の風BACK NUMBER
花巻東の仲間が「麟太郎まで回せ!」“最終打席は8回裏”のはずが猛反撃→“泥だらけヘッスラ”佐々木麟太郎のスター性「まだまだ自分は…ただ」
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/20 17:03
9回裏、打席が再び回ってきた際の佐々木麟太郎。花巻東から羽ばたき、今後どんな打者となるか
3球目はワンバウンドで、走者はそれぞれ進塁する。
4球目もボールとなり、カウント2ボール2ストライクからの5球目。佐々木は内角寄りの直球を思い切り引っ張った。詰まった打球が一、二塁間へ転がる。佐々木は体重113キロの巨体を揺らし、歯を食いしばりながら一塁へ走る。仙台育英の二塁手が飛びついて捕球し、一塁に送球。佐々木は懸命に体を伸ばしてヘッドスライディングしたが、ほんの少しだけ間に合わなかった。
仙台育英の湯田が明かした「麟太郎対策」とは
高校通算140本塁打。世代No.1スラッガーの高校野球は終幕した。試合後のインタビュー会場に現れても、涙が止まらない。ユニホームも本塁打を量産してきた太い腕も泥だらけの佐々木は自分を責めた。
「みんながつないでくれたのに、期待に応えられず申し訳ない気持ちでいっぱいです。結果を出せない自分が不甲斐なく、苦しかったです」
この試合は四球で一度出塁したものの、4打数無安打に終わった。仙台育英バッテリーの対策は徹底していた。佐々木をピッチャーゴロと空振り三振に仕留めた先発の湯田統真投手が明かす。
「第1打席の印象は重要なので、初回の打席は絶対に打たせないつもりで投げました。できれば三振、最悪でも凡打でアウトに取ろうと思っていました。外角への145キロ以上の直球はファウルになるだけで打たれることはないと感じていました」
1打席目は力で押せると感じたので
仙台育英バッテリーが注意していたのは、真ん中から内寄りの甘い直球だった。球威のある直球を外角に集め、内角はストライクゾーンには入れない意識を持っていた。湯田は佐々木との第1打席で初球に110キロの緩いカーブでストライクを取り、2球目からは直球を7球続けた。そのうち、内角は高めのボール球1球のみ。最速151キロを含む150キロ前後の直球を外角に固め、最後は力のないピッチャーゴロに打ち取った。
2打席目も外角の直球に緩いカーブやチェンジアップを織り交ぜて、佐々木に自分のスイングをさせなかった。湯田は「1打席目は力で押せると感じたので直球を続けました。直球に意識がある中で、カーブも上手く使えたと思います」とイメージ通りの投球を振り返った。