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「私はスターダムを世界で一番だと思ってる!」赤いベルトの女王・中野たむの叫びが意味するもの…世界に開かれた“日本の女子プロレス”の現在地
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2023/08/20 11:01
8月13日のスターダム大阪大会。メーガン・ベーンの挑戦を退けて赤いベルトを防衛し、コズミック・エンジェルズの面々と喜び合う中野たむ
もちろん、すべては先入観にすぎないのかもしれない。8月13日の大阪では、そういった先入観や違和感が、いかに野暮で意味のないものなのかを思い知ることになった。
林下詩美「岩谷麻優はいつだって私の先にいて…」
3試合とも「パワフルな挑戦者に王者が追い詰められる」という展開になったが、だからといって同じような試合だったわけではない。それぞれの試合は、しっかりとそれぞれのベルトの色に染まっていた。
ウィロー・ナイチンゲールに続き「ビッグな相手」との試合になったSTRONG王者・ジュリアは、大きな体重差のある優宇と真っ向勝負を繰り広げた。
強烈なビンタで顔を歪まされても、ダイビングボディプレスで容赦なく潰されても、正攻法で立ち向かっていった。
イレギュラーな存在に対し、自分の“本当の強さ”を確かめるべく真正面からぶつかる――それはまさにSTRONG王座の試合だった。
試合後にはアメリカのプロレス団体「インパクト・レスリング」からの挑戦表明が映像で流れ、ジュリアは王者として敵地に乗り込むことになった。
一方のIWGP女子王座はKAIRI、モネ、岩谷という“すでに女子プロレス界のアイコン”である選手達が草創期の王者となったことで、シンプルな「強さ」とは異なる象徴としての意味合いを持つようになっている。林下は「(初代王者決定トーナメントで)負けてから、ずっとそのベルトが欲しいと思ってきた」と岩谷に挑戦状を叩きつけた。
林下が岩谷のトペをかわせば、岩谷は林下が自身をリングに戻そうとするスキを突いてエプロンでのドラゴンスープレックスを炸裂させる。互いに手の内を知り尽くした者同士が主導権を奪い合いながら、そこに両者の意地が掛け合わさる激戦になった。
林下が知られていない手の内――アメリカ遠征でシェイナ・ベイズラーから習得したショッキングベイズラー――を繰り出して勝利を掴んだかと思われたが、岩谷は3カウントを許さない。最後は秘技ドラゴンズ・レイ(変型フブキラナ:コーナーポストから相手の肩に飛び乗って決めるリバースウラカン・ラナ)で“アイコン”の座を死守した。
かねて“スターダムの逸材”と評されてきた林下は、『5★STAR GP』を制したことも、赤いベルトを岩谷から奪取したこともある。それでも試合後には「岩谷麻優はいつだって私の先にいて……今日こそ岩谷麻優の先に立つって決めてたのに。なんで今日も、岩谷麻優が私のずっとずっと先にいるんだよ」と悔しさを爆発させた。