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「いまや野球は“絶滅危惧”」甲子園出場、おかやま山陽・堤尚彦監督が警告する“野球界の大ピンチ”「ベンチ入り上限を満たせないチームが無数に存在」
text by
堤尚彦Naohiko Tsutsumi
photograph bySankei Shimbun
posted2023/08/17 06:00
甲子園で2勝を挙げたおかやま山陽・堤尚彦監督。甲子園出場を本気で目指した理由は「野球界への危機感」からだったという――
今回、筆を執ったのは、海外を含む私の経験、もっと言えば私の人生を伝えることで、野球の現状を知ってもらい、これからの野球界に必要なことを読者に考えてもらいたいという思いに尽きる。よくベテランの高校野球指導者と話すと、「まあ、オレの定年まではなんとかもちそうだしな」というふうに、野球界の窮状を“他人事”のように捉えていると気づくことがある。だが、皆がそれでは確実に野球は終わる。この本を手に取った読者の多くは、野球をやっている人、やってきた人、もしくは少なからず興味がある人だと思う。野球に魅せられ、野球に夢をもらったあなたたちが、この本をきっかけに、今よりも野球界を良くしようと思ってくれれば、こんなに心強いことはない。
パタゴニアの100カ条
おかやま山陽野球部には、66カ条からなる部訓がある。公式戦はおろか練習試合でもなかなか勝てず、やんちゃな選手の問題行動も収まらなかった時代に、「どうやったら自分の思いが選手に伝わるか」と考えた際、体系だってまとまった野球部の指針のようなものがあれば便利だと思い、作成を始めたものだ。
そもそもの起源は、私の高校時代にまでさかのぼる。高校3年生だったとき、同級生の菰田浩から「これ知ってる? おもしろいから読んでみて」と手渡された本の中に書いてあった「パタゴニアの100カ条」が、多大な影響を及ぼしている。
パタゴニアは、アメリカに本社を置き、登山用品、アウトドア用品などを主力商品とするメーカーだ。その社訓にあたるのが、パタゴニアの100カ条である。
「過ぎ去りし時代の栄光、成功をひきずらない(第2条)」
「人と人との出会いからすべてが始まり、そこに未来が開かれていった(第51条)」
このように社訓というよりも、「企業としてこうありたい」「こういった思いを共有した集団でありたい」というフィロソフィー(哲学)と呼ぶべきものであり、社員を縛り付けるのではなく、進むべき道を示している。
「66」は監督の世田谷リトル時代の背番号
10代後半の青二才だった私は衝撃を受け、「将来自分が会社を持つようなことがあれば、同じようなものを作りたい」と感銘を受けたものだ。結果的に企業のトップになることはなかったが、想像もしていなかった高校野球の指導者となり、自分のチームを持つようになったため、部内規則ではなく、“部訓”として定めることにした。