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「いまや野球は“絶滅危惧”」甲子園出場、おかやま山陽・堤尚彦監督が警告する“野球界の大ピンチ”「ベンチ入り上限を満たせないチームが無数に存在」
text by
堤尚彦Naohiko Tsutsumi
photograph bySankei Shimbun
posted2023/08/17 06:00
甲子園で2勝を挙げたおかやま山陽・堤尚彦監督。甲子園出場を本気で目指した理由は「野球界への危機感」からだったという――
JICA隊員、会社員としても「世界に野球を広める」活動
少し話が逸れた。私が生まれて初めて暮らした海外であり、野球後進国であるジンバブエで痛感したのは、「野球は世界的に見れば、絶対的なメジャースポーツではない」という事実だった。日本国外に出なければ気づくことのなかった、野球の立ち位置に私は衝撃を受けた。
それからというもの、「世界に野球を広める」ことを自分の使命と位置づけ、青年海外協力隊員として、また、帰国後に入社したスポーツマネジメントを核とする会社でのビジネスマンとして、そして現在に続く高校野球の指導者としての立場から、様々な野球普及活動に取り組んできた。
中古野球道具の発送を野球部が行うワケ
17年夏に、私が監督を務めるおかやま山陽高校が野球部史上初の甲子園出場を果たした際に、私の元・青年海外協力隊員という肩書とともに、私たちが取り組んでいる「中古野球道具を発展途上国に発送する」という活動(図(1))が広く取り上げられた。
中古野球道具の寄付は、非行に走る生徒たちに、「自分たちも誰かの役に立っている」という実感を持たせたいという思いから、11年以降野球部を挙げて取り組んでいる活動だ。
選手たちが、小・中学生時代に使用していたグラブ、バットなどを集め、野球の普及が十分でない発展途上国に寄付している。甲子園に出場したことで、私たちの取り組みが岡山県外にも伝わるようになり、全国から中古野球道具が学校宛てに送られるようになるなど、活動の輪は広がっている。年数を重ねるごとに、「世界に野球を広める」という目標に向かって、着実に前進できている……。そう信じていたが、昨今、その思いが揺らぎつつある。というのも、世界はおろか、圧倒的な人気を誇っていた日本国内でも野球の立ち位置が危うくなっているからだ。
オレの定年まではなんとかもちそうだしな
少年野球でプレーする選手、チーム数は右肩下がりで減少。多忙な校務に追われ、しばしば“ブラック”と評される教員たちの業務負担軽減を目的とした部活動指導の“地域移行化”の動きに伴い、活動時間が大きく制限され、中学校の軟式野球部は全国的に崩壊寸前とも言える。高校野球でも、一部の強豪校を除くと、1、2年生だけでチームを組む秋の公式戦で、ベンチ入りの上限を満たせないチームが無数に存在している。今、日本球界は未曾有の大ピンチを迎えている。私は、かつて“敵なし”と言われながらも進化の機会を逃し絶滅した恐竜のように、国内最大のメジャースポーツであった野球が滅びてしまうのではないかと不安で仕方がないのだ。