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坊主頭から長髪に…あの甲子園エースはなぜ“ロン毛”を選んだのか?「まだまだ切るつもりはないですよ」 西武・高橋光成の現在地
posted2023/08/16 06:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
KYODO
あの夏からちょうど10年になる。2013年、甲子園。16歳だった2年生エースの高橋光成は、前橋育英高校を初出場初優勝に導いた。全6試合に登板して5完投、防御率0.36と、圧倒的な投球でチームを引っ張り、青空に両腕を突き上げた。
当時82kgだった体重は、現在106kgまで増えた。'18年オフから弟子入りした西武の先輩・菊池雄星(現・ブルージェイズ)との自主トレを機に始めたトレーニングの成果で、分厚い筋肉の“鎧”を身に纏った。
外見の変化と言えば、目を惹くのは髪型だろう。かつてのスポーツ刈りは長い金髪に。ピッチングの躍動感とともに、獅子のたてがみの如く雄々しくなびく。異色の“ロン毛”に、時に否定的な声も届くが、高橋は反発するでも意地になるでもなく、実に大らかに受け止めている。
「この髪型、気に入っているんです。違う角度から注目してもらって僕自身を知ってもらえるきっかけになれば嬉しい。まだまだ切るつもりはないですよ」
髪を伸ばし始めた理由
アメリカのマーベル映画「マイティー・ソー」の主人公「ソー」に憧れて伸ばし始めたのがきっかけだという。「強くて、カッコよくて……うん、ヒーローですよね!」。そう話す口調は、厳つい外見とは裏腹、穏やかで優しい。この金髪も、右腕にとっては戦士として纏う“鎧”の一部なのだろうか。
強く、頼もしいヒーロー。それは、アマチュア時代から変わらず目指してきた投手としての理想像とも一致している。
「怪我をせず、イニングをしっかり重ねられるタフな存在。ゲームを支配できるピッチャーになりたいと思ってやっています」
今シーズン、大きな手応えを得た一戦があった。前半戦最後の登板となった7月16日の日本ハム戦。日中の最高気温39度を記録した所沢のナイターで9回を投げ抜き、自身3年ぶりとなる完封勝利を手にした。
9回2死からアリエル・マルティネスを見逃し三振にとった1球は、120球目にしてこの日最速タイの154km。あまりの暑さに自慢の長髪を一つ結びにして挑んだ力投で、チームも最下位脱出を果たした。
「9回でも球速が落ちないのは体力が残っている証拠ですし、平均球速もこの試合が一番良かった。球速はずっと追い求めてきたもので、トレーニングやフォームの調整など、色々な取り組みが今年やっと噛み合ってきたという手応えがあるんです」