マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
あの慶應高vs横浜高「踏んだ、踏まない」誤審疑惑…現役審判員が証言する“意外なポイント”「映像が100%正しいわけじゃないんです」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/04 17:00
神奈川大会決勝で慶應高に敗れ涙を流す横浜高校の選手たち
その話は私も耳にしたことがあったのだが、もう1つの心配は恥ずかしながら私も知らない話だった。
「キャッチャーが逆球を捕りにいかないんですよ」
例えば、右打者の内角に捕手が構えて、ボールが外に外れた時。捕手がミットを出してボールを捕りにいこうとしないんだそうだ。
「私が塁審をやっていた時、目の前で球審の右手にボールが当たって骨折した場面を目撃していますから。間違いなくそういう選手は増えています。だから私が球審の時は、そうやって抜けたボールは、ちゃんとキャッチャー本人に捕りに行かせます」
Kさんが聞いた話では、誰でも知っている有名大学の捕手が、右打者の外角のショートバウンドを捕りにいく意思を示さずに、後方に抜けるのを見送った。球審が注意したら「どうしてランナーがいないのに止めにいかなきゃいけないんですか?」と逆に返されたそうだ。
「それではマスクをかぶる資格なしだと思う。だって、その1球を投げるために、投手がどれだけエネルギーを使っているのか。確かに投げ損じの1球なのかもしれない。でも、その1球を投じるために、どれだけ頑張って練習してきたか。懸命に投じた1球を『無視』された投手の心情を想ったことがあるのか。そこに思いの届かない捕手など『キャッチャー』じゃないでしょう」
審判員の心には、現場の選手たちの気持ちがよくも悪くも直に刺さってくるのだ。
「審判が目立たない試合が、いちばんいい試合」
とにもかくにも、地方大会は終わって、今年も甲子園が開幕する。
時に「石」とも例えられ、痛烈な投球や打球に直撃されながら、炎天下の数時間を灼熱のグラウンドに立ち続け、一瞬のジャッジに神経をすり減らす。それでも試合を止めることなく、前に牽引していく審判員たち。
「審判が目立たない試合が、いちばんいい試合」
30年もジャッジの最前線にいた人が、そんなことを言っていた。
この甲子園はいつもよりもっと「審判員たちの矜持」が人知れず弾ける瞬間を、見逃さずにいたいと思う。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。