濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
親にも隠した“突然のがん宣告”…山本KIDに憧れたプロレスラー・フジタ“Jr”ハヤト、万感の2冠獲得「毎回、これが最後かもしれないと思って」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byGLEAT
posted2023/08/04 11:06
5年に及ぶ欠場期間を経てリング復帰を果たしたフジタ“Jr”ハヤト
キッドの弟子になり「受けた影響ですか? 何もかもですよ」
すでに高1の時点で、みちのくプロレスにスカウトされていた。ドッグレッグスのリングドクターを務めていた香山リカの紹介だった。香山はみちのくプロレスの社長・新崎人生の友人だった。
「ちょうど会長(ザ・グレート・サスケ)が議員になって新崎さんが社長になるタイミングで、新しい選手がほしいと。それからは部活終わって受身の練習して、みたいな生活でしたね」
デビュー前には、憧れの人の弟子にもなった。
「新崎さんに一番好きな選手は誰なのかって聞かれて、KIDさんと答えたんです。そしたらサプライズでKIDさんのジムに連れて行ってくれて。そこから練習させてもらうようになりました。
KIDさんから受けた影響ですか? 何もかもですよ。服から真似してましたから。みんなに家族みたいに接してくれるし、周りを気にしないところとかもカッコよくて。記者会見でもみんなスーツなのに、KIDさんだけジーパンにパーカーみたいな。それで僕も会見でスーツ着たことないです。
そんなだから他団体に出ると“あいつナメてんのか”ってなるんですけど、それで全然いい。そういう人の見方が変わるような試合をすればいいんで」
「バチン」「今の音、何?」試合中の靭帯断裂
デビュー後はさまざまなタイトルを獲得、新日本プロレスのジュニアヘビー級リーグ戦にも出場するなど活躍を見せた。武器は打撃とサブミッション。ゴツゴツとした武骨な闘いが身上だ。
「僕がデビューした時からそうだったんですけど、やっぱり綺麗な技で華麗な試合をする選手が多かったんです。僕はそういうのが好きじゃなくて。興行の中で第1試合からメインまでずっとそんな試合だと印象が薄れますよね。そこに蹴り一発でKOするような試合があったらインパクトを残せる」
試合中にヒザを負傷したのも他団体の試合だった。2017年、ZERO1恒例のリーグ戦「火祭り」にエントリー。大谷晋二郎との対戦中に、左ヒザがバチンと大きな音を立てた。
「最前列で見てたお客さんが“今の音、何?”って驚いてました。一瞬で“これはダメだ”って分かりましたね。内側靭帯、外側靭帯どっちも断裂です」
実はその前から、夜も眠れないくらい腰が痛かった。レスラーだから痛い場所があるのは当然だと思っていたが、腰をかばいながら試合を重ねているうちにヒザにも負担がかっていたという。
「病院でヒザの手術をすることになったんですけど、僕としては“その前に腰を見てほしいんです”と。最初はヘルニアだろうということで、腰の手術をしてヒザの手術。そこからリハビリを始めようとなっても、まだ腰が痛い。僕もレスラーなんで、切った(手術した)から痛いのか、もっと中からくる痛みなのか、違いは分かるんですよ。それで検査したら……がんでした」