濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「この2年は“闇堕ち”の話題性」人気覆面レスラー、泣き顔の告白…飛躍を期すスターライト・キッドが語った「やりたい相手」とは?
posted2023/08/01 17:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
スターダムのヒールユニット・大江戸隊のメンバーであるスターライト・キッドは、感情豊かなレスラーだ。凄んだり相手に睨みをきかせたりというだけではない。よく笑うし、それに人目をはばからず泣くこともある。ヒールで覆面レスラーだからといって、単なる“キャラクター”ではないのだ。
7月2日の横浜武道館大会、そのインタビュースペースでキッドは泣いた。それだけ特別な闘いだった。対戦したのは高橋奈七永。“女子プロレス界の人間国宝”と呼ばれるベテラン選手だ。
この対戦には、ことのほか思い入れがあった。キッドは親に連れられて、0歳の頃から女子プロレスを会場で見てきた。物心つく前から“女子プロレスの空気”を吸ってきたわけだ。日本では、女子プロレスは女子プロレスというジャンルであって“プロレスの女子部門”とは違うニュアンスがある。全日本女子プロレス(全女)から続く、男子とは別の歴史、文化があるのだ。
「今のスターダムには男子のプロレスを見て入ってきた選手も多い。それに芸能界からプロレスに来て、それまでプロレスを見たことなかった人たちとか。でも私はファンとしては女子しか見てない」
“全女魂”を受け継ぐという意志
キッドは、この世界には「全女魂」とか「THE 女子プロレス」とも言うべきイズムがあると考えている。それを受け継いでいく1人が自分であるとも。だから、全女のトップ選手だった奈七永との対戦は重要だった。
試合に向け、キッドは道場にマスコミを集めて公開練習を行なっている。団体としてのプロモーション企画というより、キッド自身が望んだもののようだった。キッドはかつて奈七永のタッグパートナーだった中西百重を招き、モモラッチや三角飛びムーンサルトアタックといった得意技を教わった。
取材のための“見せる用”練習ではなく、細かいところまで動きをチェックしてもらい、奈七永の弱点を聞く。掛け値なしで“練習を公開”したのだ。キッドにとっては“全女魂”を受け継ぐためにも必要なものだったのではないか。
試合には敗れたが、今度は奈七永と百重の“ナナモモ”タッグと対戦したいとアピール、会場を盛り上げる。ただインタビュースペースで1人になったところで心の奥底をさらけ出し始めた。
「ナナモモ、今のスターダムでできたら面白いんじゃない? 他からきたヤツらも過去の因縁をここでやってるじゃん。だったら私は全女のことをこのリングに持ち込む」