「寄せ集めから始まるチームにとって一番の敵は遠慮なんです。遠慮して自分が言いたいことを言えなかったりすると、チームにならない。そういうところから綻びが出てきます。

　チームが追い詰められたときに修正できるかどうかは、年齢の上下や試合に出ている出ていないに関わらず、遠慮なく言いたいことを言いあえるかどうか。バルセロナのときも遠慮なく何でも言える雰囲気だったからこそ、予選で活躍した西山をオリンピックに連れて行こうと選手たちが監督に直訴できたんだと思います。あのとき、不思議と何とも思わなかったんですよね。ピッチャーの枚数が足りなくて負担になるなんて、まったく思いませんでした」

アトランタ五輪では準決勝・アメリカ戦、決勝・キューバ戦など、4試合で先発を任された杉浦　©Bungeishunju

　バルセロナでは準決勝で台湾に敗れて日本は3位決定戦に回った。杉浦は金メダルの目標が霧散することになる準決勝で、2本のホームランを打たれて敗戦投手となってしまう。その夜、杉浦の部屋に集まってきたチームメイトは、口々にこう言った。

「明日、勝って終わろうよ――」

「最初は本当にどうしようもないチームでした（笑）」

　杉浦がこう続ける。

「4年かけてきたチームの目標を僕が終わらせてしまったと思ったら涙が止まらなくて、部屋に籠もっていたんです。そうしたらみんなが部屋へ来てくれて、慰めるのではなく前を向こうと言ってくれた。このチームで最後、勝って終わりたいというあの言葉があったから、僕は助けられました」

　杉浦は銅メダルを懸けた3位決定戦、3番手として5回途中から連投のマウンドに立った。そしてアメリカ打線を1安打無失点に抑えて勝利投手となり、銅メダルを獲得した。4年間の目標を失った悔しさを乗り越えて、勝って終わりたいと言えたチームを杉浦は今でも誇りに思っている。

　その4年後、アトランタを目指す全日本に、杉浦は唯一のバルセロナの経験者としてメンバーに入った。しかし杉浦の目には、このチームはバルセロナとはあまりに色が違うチームに見えていた。

「いやぁ、最初は本当にどうしようもないチームでした（笑）」

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