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「井上尚弥の圧力にフルトンが萎縮するようなら…」“パンチを予見するカメラマン”が歴史的な無敗対決を展望「中盤に試合が決まる可能性も」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2023/07/23 17:03
7月15日、公開練習のフォトセッションで笑顔を浮かべる井上尚弥。ボクシングカメラマンの福田直樹氏に、歴史的な一戦を展望してもらった
もし立ち上がりでフルトンが萎縮するようなら…
とくに注目されるのが、最初の1、2ラウンドになる。井上の構えは序盤から常に隙がなく、とくに左ガードの位置が絶妙だ。打つ場所が少ない上、ノーモーションの強いジャブ、迂闊に手を出した際の左右リターンを警戒して、対戦者がはなから思うように仕掛けられないことが多い。その構えや井上の反射神経と対峙してフルトンがやりにくそうな表情を浮かべるのか、それとも顔色を変えずに冷静に動くのかで、以後のペースが少し違ってくる。
井上の対処能力は全階級を通じてトップクラスと言えるが、フルトンも状況に応じてどこに回り込むか、何を打つか、くっつくか離れるかの直感に優れている。開始直後のその駆け引きには、相当な緊迫感があるに違いない。私はまだフルトンの実戦を撮ったことが一度もないので、映像では分からなかったパンチの質や細かいリズムを観察しながら撮影を始めていきたい。
もし、その立ち上がりでフルトンが井上の圧力を感じ、多少なりとも萎縮するようなら、中盤あたりに試合が決まる可能性が出てくると予想している。フルトンのバックステップはことのほかバタつき気味で、攻め込まれそうになるとガードを固めてやり過ごし、サイドに動くかクリンチに逃げるというやや大雑把な回避パターンが目につく。その間に井上がハードな左ボディブローを打ち込むシーンを、どうしても期待してしまうのだ。王者はアウトボクシングを軸としながらも、往々にしてフックやアッパーで接近戦に応じる気質を持つが、ここにも“モンスター”のより強い左フックが待っている。体のフレームの差が時には有利に働き、井上の方がインサイドからコンパクトで正確な強打を打ち抜いていける気がする。
井上にとってあまり良くないムードが漂うのは、序盤にさほど間合いを詰められなかった場合や大柄な王者とのクリンチに付き合わされているうちに、想定外の体力を使ってしまったケース。あるいはその過程でどこかを痛めてしまった時だろう。一見線の細いフルトンだが、スタミナは豊富で、好戦型のブランドン・フィゲロアと相手の土俵でやりあえるくらいの体力がある。フルラウンドの経験値でも挑戦者の上をいっている。そんな混戦になったとしてもなお井上のアタック、挑戦者サイドのフルトン対策が勝ると思うが、井上がスーパーバンタム級初戦である点も含め、このあたりは実際のファイトで二人の状態を比べないと分からないところだ。