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JリーグPRESSBACK NUMBER
彼はなぜ自転車で川崎から神戸に…?「長津田でやめたくなりました(笑)」600kmを走り抜いた川崎Fサポの“ロードムービーのような旅路”
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNumber Web
posted2023/07/15 11:00
川崎~神戸間の約600kmを自転車で走破した小野田治矢さん。彼は何を思って「チャリ神戸」に挑んだのか
「き、きつすぎる…」開始20kmでリタイアを検討
5月29日、月曜日。
小野田さんは等々力陸上競技場から出発した。目標は6月3日のキックオフまでに、ノエビアスタジアム神戸に到着することだ。川崎フロンターレのユニフォームを身に纏い、セルフィーを撮ってTwitterで出発する旨をつぶやいてみた。「チャリ神戸」が初めて公になった瞬間である。「誰かが少しでも反応してくれればいいな」というささやかな願いを込めて、ひっそりとスタートした自転車旅だった。
意外なことに、Twitterでは最初の投稿から良好な反応が返ってきた。
普段は1つか2つしかつかない「いいね」が一気に20もついたのだ。「ほとんど経験したことがないので驚きました」と小野田さんは明かした。だが、走り始めてすぐに、この旅が“無謀”だったことに気付かされたという。
まず、荷物が多すぎた。
自転車旅は、いかに装備をコンパクトにまとめるかがカギである。だが初心者であるがゆえに、必要以上の重装備でスタートしてしまったのだ。
「初めてなので勝手がわからず、リュックをパンパンにしてしまいました(笑)。ユニフォームはさておき、汗をかくだろうからと替えのTシャツや、絶対に必要ないパジャマまで持っていってしまった。なのに、絶対に必要なモバイルバッテリーは持っていない(道中で購入)という……。今だったら、荷物は半分くらいになると思いますね」
そんな重装備でペダルを漕ぎ続けるのはハードワークだ。日頃の運動不足もあり、開始早々に両脚が悲鳴をあげた。
「本当にめちゃくちゃきつくて……。けっこう走ったなと思っても、たったの5kmしか進んでなかった。自分で勝手に始めたのに『こんなにきついなんて聞いてないよ!』って(笑)」
さらに出発直後に寄せられた、あるコメントに愕然とする。
「チャリパナは電動だったので無理なさらず!」
……そうだったの?
説明するまでもないが、脚に力を入れて漕がなくても走行できる電動アシスト自転車と、完全人力のロードバイクでは、身体の負担に雲泥の差がある。想像以上の過酷さと準備不足により、等々力から約20km地点の長津田(神奈川県内)でリタイアを考えたほどだった。小野田さんは「今ならまだ間に合う……」と弱気が顔をのぞかせたと苦笑する。