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藤井聡太に3連敗を喫し号泣…出口若武が明かす、叡王挑戦の3局で起きていたこと「盤の前に座ったら頭が真っ白に」「もう少し藤井さんと指せば…」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byTakashi Shimizu
posted2023/06/29 11:03
2022年春に藤井聡太叡王に挑戦した出口若武。3連敗で寄り切られた出口が振り返る第3局後に見せた涙の理由とは――
「さすがに自分でもビックリしました。周囲がまったく見えていないんだなって」
開幕戦は、挑戦者が浮き足立ったまま終わってしまう。勝負どころで悲観した出口が自ら土俵を割ったような内容で、藤井の指し手にも特別語るべきものはなかった。
藤井の不調説
藤井はこの将棋が50日ぶりの公式戦だった。これだけ対局の間隔が空いたのは最初の緊急事態宣言が発出された2020年以来だったが、「やってみないとわからないと思っていましたが、始まってからは普段通りに指せた」と局後に振り返っている。
叡王戦第1局の後、藤井は王座戦の決勝トーナメントを指した。六冠を目指すには落とせない重要局だが、2勝3敗と負け越している大橋貴洸六段に競り負けた。藤井が得意の終盤で劣るのは珍しい。大橋のハイパフォーマンスはもちろん、藤井の不調説も唱えられ始めた。そして王座戦で敗退したことにより、2022年度の防衛色がより濃くなったのは間違いない。
自分はたまにそういうバグがある
第2局は先手の出口が好調な指し回しを見せた。だが実際は「盤の前に座ったら頭が真っ白になって、想定していた局面と違う手を指してしまった。自分はたまにそういうバグがある」と打ち明けた。それでも優位のまま中盤戦へ進んだが、リードを拡大する順を発見できず、藤井に千日手に逃げ込まれた。「リスクの多い指し方で、途中で失敗してしまった」と悔やむ藤井。タイトル戦での千日手はこれが初めてだったが、なりふり構っていられなかった。
指し直し局についての出口の言葉数は多くない。「藤井さんより少しだけ多かった持ち時間を生かしたいと思って早指しにしたのがよくなかった。すっぽ抜けがあってひどかった」と悔やんでいる。