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[20歳の覇道]藤井聡太「深淵への旅は続く」

2022/10/06
この男を止められる者は、もはやいないのか――。若武者を相手取った叡王戦、鬼才を屠った棋聖戦。好敵手を返り討った王位戦。王者に敗れ去った男たちの姿と証言から見えてくる、20歳の恐るべき進化とは。

 5つ保持するタイトルをどう防衛するか。

 デビュー以来、侵攻を重ねてきた藤井聡太が、初めて経験する守備的な1年。タイトルを次々と増やして棋界の勢力図を自分色に染め上げたのが昨年度とすれば、それを維持するのが今年度の若き天才棋士の最大の使命である。その防衛ロードの4つ目にあたるのが竜王戦だ。

 冠位者は敗れれば傷を負うが、挑戦者に失うものはない。次々に登場する勢いのある敵をどう迎え撃つのか。

 防衛する側は負けると1が0になってしまうのでプレッシャーは避けられない。藤井はその「1」を、挑戦者と「0.5」ずつ分け合うイメージを持っているという。

 自分を挑戦者と対等の立場と見ることで平常心を保とうとしている。人によって接する態度が変わらない、対戦相手によっても作戦を変えることのない藤井らしいフラットな思考法である。

 現状、敵なしの藤井にとって、全冠制覇に向けて大きな壁になる年度前半の防衛戦には、実力と個性と勢いを兼ね備えた3人の挑戦者が立ちはだかった。

 緑が濃くなり始める4月下旬に開幕する叡王戦が藤井の防衛戦のキックオフだった。

 挑戦権を獲得したのは、デビュー4年目の出口若武六段。連勝連敗タイプで調子の波が大きく、初年度は順位戦でいきなり降級点を喫したが、それでも年度勝率は6割を超えたというユニークな若者だ。その不安定さを逆にバネとして、予選、本戦ともに4連勝で一気に駆け上がってきた。まだ実績は足りないが、この大舞台で弾ける予感を抱かせた。

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photograph by SANKEI SHIMBUN

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