球体とリズムBACK NUMBER
「ミトーマ! 抜ける秘訣はスシ、ラーメンか♪」「知ってるよ。こないだ…」三笘薫が老若男女に好かれるブライトンは“ステキなビーチの街”だった
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byRobin Jones/Getty Images
posted2023/07/01 11:00
三笘薫が愛されるブライトン。その街を散策してみると……?
「あれほどスピードと技術が高く融合されたドリブラーは見たことがない。少なくとも、これまでのブライトンではな。驚くばかりの才能だ。注文をつけるとすれば、相手のタックルに倒れそうになっても堪えてほしい。イングランドでは笛が吹かれないことが多いから」
貴重な話に礼を述べて握手をして別れる際、「今夜、ユナイテッドに借りを返さないといけませんね」と言うと、彼はまた微笑んで手に力を込めた。そして数時間後には、試合終了間際の決勝点でブライトンが本当に勝利を収めた。
子供いわく「ミトマ?知ってるよ。こないだ…」
〆切のない日のよく晴れた午後、スーパーへ向かう途中に芝生のピッチでボールを蹴っている少年がいた。通りすがりにパスをもらい、一緒に軽くリフティングをしたので、「君はここで生まれたのかい?」と尋ねてみた。
「そうだよ、ブライトン出身」と10歳未満に見える少年は言う。
「じゃあ、アルビオンが好き?」
「いや、パリ・サンジェルマン。(キリアン・)エムバペが大好き」
「ミトマって知ってる?」
「うん、知ってるよ。こないだシュートチャンスでミスしたよね」
僕が話したブライトンのフットボールファンのなかで、もっとも三笘に批判的な意見を持っているのが、まさか年端も行かない少年だとは。子供は正直だから、そんなものなのかもしれないけれど。
ウクライナからブライトンに避難してきた子供も
また別の日にはまた別の公園で、ひとりでドリブルをしている若者がいた。こちらはより真剣なトレーニングといった風情で、でこぼこのピッチに小さなコーンをいくつか置き、突破からシュートを打つ練習をしている。聞けば、彼のウクライナの故郷が砲撃で破壊されてしまったため、昨年からブライトンに住んでいるという。
「僕はまだ17歳だから、国外に住んでも問題にはならないんだ」と実年齢よりも落ち着いたトーンでティムと名乗る青年は話す。「そうはいっても昼はレストランで働いていて、その後にこうして練習をしているだけの毎日だけどね。将来はプロになりたいけど、人生は何が起こるかわからないから。僕はそれを実感しているよ」
返す言葉がなくて立ち竦んでいる僕に、彼は携帯電話を見せた。そこには破壊される前後の彼の学校の写真があった。