大学生らしき白人女性は画面をじっと見つめながら、時々なにかひとりごちていたので、ハーフタイムに「ブライトンをサポートしているの？」と訊いてみると、「もちろん！」と返答。「三笘のことはどう思う？」と続けると、「大好き！　速くて上手くて知的よね。でも最近はちょっと疲れているのかも」と分析する。

　すると彼女の友達の男の子がやってきて、こちらを見るなり「ミトーマ！」とにこやかに声をかけてきた。おそらく彼は最近、酒を飲んだ時に東洋人の男を見ると、こんな風に反応しているのだろう。陽気な彼は三笘のチャントについて語る。

「『テキーラ』の替え歌だけど、あれは（昨夏にトッテナムへ移籍したイブ・）ビスマのお下がりみたいなものだ。オレなら、こう歌うけどな。『ミーートーーマーー、君はなぜそんなに容易く敵を抜けるんだい？　寿司やラーメンが秘訣なのか！』」

　周囲の雑音のせいか、外れた音程のためか、元の曲が何かはまったくわからなかったけれど、楽しくなって一緒に声を上げて笑った。

40年前のFA杯決勝を知る古参ファンに聞く“ミトマ評”

©Yoichi Igawa　

　日本のゴールデンウィーク中に行われたマンチェスター・ユナイテッドとのホームゲームの前には、アメックス・スタジアムの周囲でベテランサポーターと話す機会があった。半世紀以上アルビオンを応援しているという男性は、クラブ史上最高到達点となった1983年FAカップ決勝のチケットを今も持っていると言った。

スタジアム周辺にはまさに“生き字引”のようなファンも　©Yoichi Igawa　

「40年前、旧ウェンブリーに10万人近くのファンが集まった試合だ」とテリーと名乗るその人は、少しずつ打ち解け、最後は饒舌になった。「そのシーズンに2部に降格したアルビオンが、FAカップの決勝に初めて辿り着いた。今よりもずっと、このカップ戦の持つ意味が大きかった頃だ。ロンドンは遠くないし、行かないわけにはいかなかった。結局、2-2の引き分けの後の再試合で0-4で負けたよ。アルビオンがメジャートロフィーにもっとも近づいた瞬間だ」

　そんな歴史の証人に、三笘についても訊いてみた。すると深い皺のある顔が、傾いた太陽に照らされて、一瞬ほころんだ。

【次ページ】　子供いわく「ミトマ？知ってるよ。こないだ…」