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サンクチュアリ俳優・猿谷は千代の富士の“付け人”だった…!「僕の断髪式で号泣したんです…」実は“優しい親父”の素顔と忘れられない最後の会話
posted2023/06/26 11:03
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
JIJI PRESS
撮影が始まるまでの1年間を肉体作りだけに費やし、撮影開始後も力士さながらの本気の稽古は続いた。
リアリティを追求する現場において、猿将部屋の役者たちには苦労を乗り越えたからこその連帯感が生まれていった。それは力士役だけでなく、師弟の役柄においても同様だった。
「なんだかピエールさんが本当に親方に見えてきちゃったんですよ。不思議な感覚でしたね」
役者とはそもそもそういう職業なのか、良い芝居とはそういうものなのか。俳優初挑戦の澤田賢澄にはわからなかったが、猿将部屋の師匠を演じたピエール瀧に対して演技以上の真に迫る感情を抱くようになっていったという。
「もちろんカメラが回っていない時にはピエールさんと呼んでいました。でも、もう“ピエール瀧”じゃなくて“親方”なんです。役作りしやすいようにピエールさんが普段から親方として接してくれてたんで、余計にそう感じられたのかもしれません。断髪式のシーンでは、止めばさみの前にピエールさんに背中を拳でドンと叩かれるんですが、あそこは本当にやばかった。涙こそ出てないけど、思わずウワッ!と声が出そうになりました。役柄に完全に感情移入してましたから」
号泣する師匠の姿を思い出した
その時に自然と脳裏に蘇ってきたのは、自分自身の断髪式、そして実の師匠である元横綱・千代の富士(当時の九重親方)のことだった。
「うちの師匠、僕の断髪式で号泣したんですよね……そんなことを思い出しました」
現役時代の最後は千代の眞という四股名だった澤田の断髪式は、2012年秋場所の九重部屋千秋楽パーティーで行われた。
11年間の現役生活に別れを告げる最後の儀式。澤田の心持ちは劇中で演じた猿谷の真剣なものとは少し違っていた。古くからの友人もたくさん集まり、神妙な雰囲気というよりは断然リラックスムード。澤田自身も白い歯を見せながら、和やかに式が進んでいった。
そして、最後に師匠の止めばさみが入り、師弟並んで来場者に挨拶をする段になった。よくある断髪式の光景だ。
澤田は、おや? と思った。横に並んで挨拶している師匠の声が急に上ずり始めたからだ。パッと横を見ると、師匠がわんわん泣いていた。