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進取の将棋BACK NUMBER
「藤井聡太名人に4勝20敗は“偏っている”」渡辺明前名人39歳も大棋士…“2つの天才性”を中村太地八段が語る「パッと見で瞬間ピピッと」
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/06/10 11:01
渡辺明前名人はここ数年、藤井聡太新名人と激闘を繰り広げた。その“渡辺将棋”のすごみとは?
渡辺前名人としては、タイトルを藤井新名人にことごとく奪われる形になりました。対局後の取材に「ここ3年ぐらいのタイトル戦の結果からすると、少し力が足りなかったとは思います」と話していたそうですが、そのダメージは計り知れないものと推察します。私自身のタイトル経験は1期だけで、渡辺前名人(歴代4位の31期)と比べるのはおこがましいのですが……これだけのタイトル期数を重ねているからこそ失う時の痛み、さらに10連覇を果たしていた棋王など、タイトルへの愛着が増していくはず。それも複数のタイトル戦で同一の相手に奪われるというのは、たまたま奪われたという感じではない。そこの納得感を認めながらも失うつらさは、我々で知りえないものです。
“vs藤井聡太以外”のタイトル戦結果を見ると…
どうしても藤井新名人に対してフォーカスがされがちですが、渡辺前名人も偉大な棋士であることは変わりありません。ここ5年、藤井名人以外とのタイトル戦の結果をまとめていただいたのですが……。
<2018年以降の渡辺前名人、藤井新名人以外とのタイトル戦結果>※段位は省略
〈2018年〉
王将戦 vs久保利明 4勝0敗
棋王戦 vs広瀬章人 3勝1敗
〈2019年〉
棋聖戦 vs豊島将之 3勝1敗
王将戦 vs広瀬章人 4勝3敗
棋王戦 vs本田奎 3勝1敗
〈2020年〉
名人戦 vs豊島将之 4勝2敗
王将戦 vs永瀬拓矢 4勝2敗
棋王戦 vs糸谷哲郎 3勝1敗
〈2021年〉
名人戦 vs斎藤慎太郎 4勝1敗
棋王戦 vs永瀬拓矢 3勝1敗
〈2022年〉
名人戦 vs斎藤慎太郎 4勝1敗
藤井新名人以外の相手には盤勝負ですべて勝ち越し。それは紛れもない事実ですし、藤井名人と計5回タイトル戦で相まみえたのは渡辺前名人のみ。私を含めて年下の世代に対して、とてつもなく高い壁として立ちはだかっていた大棋士なのです。第1回でも話しましたが名人戦においての藤井新名人に対する対策はすさまじいものがありましたし、タイトル戦を振り返れば2021年度の王将戦第1局(※藤井が勝利)、2022年度の棋王戦第3局(※渡辺が勝利)のように評価値が最終盤で二転三転した衝撃的な対局もあり、熱戦になった際の将棋の面白さ、話題になる一手や思考などは「藤井聡太-渡辺明」のカードはピカイチに多いと言えます。
対局成績でいえば渡辺前名人から見て4勝20敗なのですが……その将棋の内容を精査し、渡辺前名人の実力を踏まえると、個人的な感覚としては“偏っている”のでは、とも思うのは確かです。
「渡辺将棋」のすごみをあらためて知る
この連載で、渡辺前名人について語る機会がこれまでありませんでした。この機会なのであらためて、広く「渡辺将棋」の強みについてご紹介できればと。