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ある高校野球指導者の苦悩「普通の高校生が150キロなんて打てないよ」のはずが…なぜ有名150キロ投手から3点も取れた? その“予想外の練習法”
posted2023/04/27 17:01
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Getty Images
◆◆◆
「130人中13人の投手が150キロを投げる」
その集まりが始まって、1時間ほど経ったろうか、お互いのエンジンがようやく温まってきた頃、ひとりが、いきなり切り出した。
「去年の都市対抗……いや、一昨年になるか。2021年の都市対抗野球で……」
その日、集まっていたのは、社会人野球の指導者が1人に、高校野球の指導者が2人、そして私。
高校野球の1人は大学を卒業してまだ数年の若手だが、あとの2人は百戦錬磨みたいな、その球界の猛者。
切り出してきたのは、社会人野球指導者のほうだ。
「ウチで取った統計だと、2021年の都市対抗でマウンドに上がった130人の投手の中で、13人の投手が150キロをクリアしたんです。しかも、145キロ以上ってことになると、80人近い投手が投げる。スピードボール打てないと勝ち上がれないってことなんですよ。でも、150キロなんてなかなか連打できないし、そうなると、やっぱり足を使って先の塁を奪っていく考え方のほうが現実的なのかなぁ……って」
そのへんから、「150キロの攻略法」というテーマに、話の向きが変わっていった。
「150キロ打つには(ピッチング)マシン、160キロに設定して。160キロが出てきたら、今度はマシン、170キロに設定して……か。きりがないねぇ」
高校野球ベテラン指導者も、頭を抱える。
「振って、振って、振り込ませて、ヘッドスピード上げるしかないのかねぇ。それにしても、限界があるしなぁ……個人差もあるし」
予想外すぎた練習方法「打っちゃいけない!」
ここまで黙って聞いていた高校野球若手指導者が、こんな話を挟んできた。
「実は僕も練習試合なんですけど、150キロ投げるっていう有名なピッチャーとやることになって。ちょっと困って、ある人に相談したんです……」
昨年の春、他県に遠征に行った時だという。
「教えてもらった練習法っていうのが、斬新というか、奇抜というか……はじめは冗談かと思ったんですよ」
なんだ、なんだ……ということになって、みんなが座り直す。
「まず、マシンを150キロにセットする。バッターが打席に立つ。150キロがビューン!と来るじゃないですか……打っちゃいけない!って言うんです」