向上心豊かな芳賀にとって、当時の監督、佐々木順一朗との出会いは幸運だった。

　高校入学当時の身長は170センチそこそこで、体重も65キロに満たないほど線が細かった。ストレートも決して速いわけではなかった左腕の芳賀が佐々木からピッチャーの心得を示されたのは、控えピッチャーながらも実戦で登板を重ねていた2年生の春だった。

「ボールが遅くても、速く見せるのがピッチングだからね。意図的にバットの芯を外したり、タイミングを遅らせて打球を詰まらせることで、三遊間とか狙った場所に打たせてアウトにできる。それって楽しいだろ？」

当時の監督、佐々木順一朗（写真は2015年） ©Hideki Sugiyama

　中学生の頃から鍛え上げられた下地によって、コントロールには自信がある。そして、カーブとスライダーを織り交ぜた緩急自在のピッチングも得意としており、遊び感覚でパームボールを習得するといった器用さもあった。それらを駆使し、佐々木から学んだ投球術でバッターを手玉に取れることが、楽しかった。

「運がよかった」あのセンバツ出場

　2年夏に甲子園のマウンドに立つなど経験を積んでいた芳賀にとって、3年のセンバツは「ないもの」と捉えていた。

　エースとして臨んだ秋季大会で東北大会準優勝。「東北2枠」の選考からすれば当確だが、仙台育英が敗れた相手は同じ宮城県の東北であり、この時はまだ同県から2校が選出されたことがなかったのだ。それが、東北に0-2と惜敗だったこと、注目の1年生エース・高井雄平と互角に投げ合った芳賀の実力などが評価され、前例は覆った。

「運がよかったと思います。個人的には『夏に見てろよ』って切り替えていましたけど、選ばれたからには『これはチャンスだ』と」

　照準が夏ではなく、春に変わった。意気揚々。そんな勇み足になりかねない芳賀は、佐々木から強制的に一時停止させられた。

「お前はね、今日、10点は取られるから」

　センバツ直前の九州遠征でのことだ。

佐々木監督の「金言」

　試合前に佐々木からそう予言され、実際に芳賀は相手に滅多打ちを食らった。自身も監督となった今でこそ「佐々木先生は私が調子に乗っていたことをわかっていたと思うんです」と指摘できるが、その時は佐々木に諭されることで目が覚めた。

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