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「プライド持てよ!」大谷翔平はなぜ“初めての日本代表”で一喝された?「今思えば、あの謙虚さが…」仲間たちが語る18歳大谷翔平の素顔 

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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posted2023/03/20 11:01

「プライド持てよ!」大谷翔平はなぜ“初めての日本代表”で一喝された?「今思えば、あの謙虚さが…」仲間たちが語る18歳大谷翔平の素顔<Number Web> photograph by Getty Images

2012年に18歳以下の世界選手権に出場した大谷翔平。藤浪晋太郎ら錚々たるメンバーと世界一を目指したが、結果は6位に終わった

 運命のアメリカ戦、1点リードの7回に日本は藤浪を投入。負けられない試合の終盤をエースで逃げ切り、決勝は大谷に懸けるというのが小倉の算段だった。

 しかし、ここで「事件」が起こる。日本の守備の乱れで無死二、三塁、一ゴロの間にアメリカの三塁走者が本塁に突入し、明らかにアウトのタイミングで捕手の森友哉に危険なタックルを見舞ったのだ。小柄な森は吹き飛んだ。ボールは死守したが、球場は異様な空気に包まれた。同点に追いつかれた後の本塁クロスプレーでも、身長190cm超の走者が再び森にタックルして勝ち越しの生還。日本は失点を重ね、そのうちに内野ゴロでは森を守るために本塁に送球しなくなり、ダメ押し点を献上して5対10で敗れた。

 小倉の語気には、今も怒りが滲む。

「あのタックルで試合が終わっちゃいましたね。球審に『こんなことを許していたら死んじまうだろう』って言いましたよ」

 優勝の夢は消え、翌朝に第1試合で5位決定戦を韓国と戦うことになった。

 笹川が、当時の思いを吐露する。

「悔しいというより、タックルがなければ勝てたんじゃないかという思いがありました。正直、翌日の韓国戦はモチベーション維持が難しかったことを覚えています」

 そんなチームにあって、先発の大谷だけは泰然としていた。夜の決勝戦に向けて準備していたはずだが、登板が朝になってもいつも通りマウンドに上がった。

「大谷が感情的になった場面はなかった」

 佐藤はこの大会で出場機会が少なく、指名打者の大谷とベンチで過ごす時間が長かった。それだけに、同い年とは思えない大谷の冷静さに目を見張った。

「あのアメリカ戦も含めて、大谷が感情的になった場面はなかったんじゃないですかね。どんなときも平常心で自分のやるべきことをやる、という姿勢でした」

 韓国戦の大谷は、打線の援護なく敗れて敗戦投手になったものの、最速155kmのストレートと切れ味鋭いスライダーで、7回12奪三振の快投を見せた。小倉は、開幕戦からの復調に舌を巻いた。

「調子が悪いときにどうすれば良いか、という修正点を持っている選手でした。制球に苦しんでいたのでアドバイスすることもあったんですが、『自分の方法があるので大丈夫です』と。やっぱり、器は群を抜いていましたよ。身体能力も、人としても素晴らしかったな。今、メジャーで発揮している実力の何分の一でも出してくれていたら、あの大会も優勝できたんだけど(笑)」

 こうして大谷が初めて日の丸を背負って出場した国際大会は、6位という結果に終わった。

【次ページ】 「プライベートの痕跡を残していない」

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