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「羽生(善治)先生が入ってきた瞬間、鳥肌が立ったんです」白熱の王将戦で高見泰地七段が感じた“冷気”「まるで『3月のライオン』のようで…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/25 06:01
王将戦第4局で藤井聡太王将に勝利し、七番勝負を2勝2敗とした羽生善治九段。衰えぬレジェンドについて高見泰地七段に聞くと…
「藤井さんと羽生先生、そして立会人の島朗先生と僕、それぞれ2人ずつでタクシーに分乗することになりました。もちろん藤井さんでも緊張したと思うんですが……羽生先生と同乗することになったんです。ただドアが開いた瞬間、“後ろの座席に並んで座って邪魔してはいけない”と思って、羽生先生に乗ってもらった後になぜか自分は助手席に座ってしまったんですよ。運転手さんも驚いたのではないでしょうか(笑)」
あ、すみません、高見くんに聞いているんです
最初は少し後悔したかもしれないが……結果的に高見の心がさらに弾む僥倖を得た。
「タクシーを降りる前に、羽生先生が“乗車料金について聞きたいことがあるんです”といった感じで前方に話しかけてきたんですが、僕より運転手さんが先に反応したんですね。すると羽生先生が“あ、すみません、高見くんに聞いているんです”とおっしゃったんです。それを聞いて“え、僕の名前知ってくれている!”って飛び上がりそうなほど嬉しくなったんです。
正直なところ、今まで羽生先生が僕の名前を知っているかすらも分かっていなかったんです。だからずっと将棋界のスターである羽生先生が“高見泰地”という名前の棋士を認識してくれている。それが分かっただけでも本当に嬉しかったんですよね」
この出来事を語る高見の表情は、とびきり明るくなっていた。そしてもう1つ、高見の脳内に鮮烈な印象として残っているのが、対局開始直前の光景である。
大げさでもなんでもなく引き締まった冷気
「羽生先生が和服で入ってきて、藤井さんが待っている構図が、すごくカッコよくて鳥肌が立ったんです」
タイトル戦には前日検分という、会場の温度や照明の明るさなど棋士の要望を聞く時間がある。そこに両対局者はスーツで臨み、翌日の対局本番はほとんどの棋士が和服を着用して戦いに臨む。その情景に、高見は“あの将棋マンガ”がオーバーラップしたのだという。