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「羽生(善治)先生が入ってきた瞬間、鳥肌が立ったんです」白熱の王将戦で高見泰地七段が感じた“冷気”「まるで『3月のライオン』のようで…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/25 06:01
王将戦第4局で藤井聡太王将に勝利し、七番勝負を2勝2敗とした羽生善治九段。衰えぬレジェンドについて高見泰地七段に聞くと…
高見がこの世に生を受けたのは1993年。当時の羽生は――現在の藤井と同じく――五冠王となった時期である。そしてその3年後には前人未到の七冠制覇を成し遂げるわけだが、幼児だった高見には当然、記憶がない。それでも「ずっと時代を築いてきた方ですし、絶対的というか、誰もが認めるという意味では唯一無二と言いましょうか」と最大限の敬意を示す。
そんな羽生とプロ入り後初対局したのは2018年1月、朝日杯将棋オープンでのことだった。
「初めて対局できると決まった時、本当に嬉しかったんです。前日に僕に何かあって、対局ができなかったらどうしようと思ったりするくらい楽しみで(笑)」
誰が相手でも自分自身を一番信じなければいけない
一方、棋士という立場では、羽生を特別視せず、1人の対局相手として認識しなければいけない事実もある。羽生と大一番で対局した際に“羽生先生を意識しすぎた”というコメントを残した棋士もいるが、高見はどうなのか。
「難しいですよね、うん」
正直な心境を明かしつつも「対局相手、例えば藤井さんや羽生先生が指してきた手に“これに罠があるのでは”と考えるのはダメですから。自分自身を一番信じなければいけないし、そうしないと最後は勝てないと思っています。中・終盤で怖い局面があったとして、踏み込まなければいけないところで踏み込めないようであれば、ただ差をつけられて負けてしまうだけなので」と、プライドを垣間見せた。
後部座席に乗る羽生に高見は何を思ったのか…
それでも盤面を離れると、高見は羽生善治への憧れは包み隠せないようだ。現在、羽生が藤井聡太王将に挑戦している王将戦で、高見は第3局の副立会人を務めた。その際の羽生とのエピソードについて聞くと、ちょっぴり恥ずかしそうに「タクシー移動をした時のことなんですが」と照れ笑いを浮かべてこう語る。