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不破聖衣来が「不安もストレスもなく練習できるように」拓大・五十嵐監督の苦悩「聖衣来からはそんなにイライラする必要ないって…」
text by
藤井みさMisa Fujii
photograph byAsami Enomoto
posted2023/02/14 11:29
昨年は怪我の影響もあり思うように走れなかった不破聖衣来。今年8月の世界陸上に照準を合わせて準備しているという
「区間賞を取ってチームに貢献はしてくれたんですが、タイムだけを見た世間からすれば『全然走れてないじゃないか』っていう評価になってしまいがち。でもずっと近くで練習を見たり、気持ちを聞いたりしている私からしたら、あの状態で、区間賞を取るっていうのも奇跡的だったと思います。それを詳しく説明すると、また『そんな状態なのに走らせたのか』という人も出てきちゃったり……。難しくて」
不破は世界と戦える力をじゅうぶんに持った逸材であるがゆえに、「陸上界のニューヒロイン」と呼ばれ注目度も高い。五十嵐監督がその才能に惚れ込み、高1からアプローチを続け、選手と指導者の関係となって2年。入学当初と基本的な接し方は変わっていないが、不破のことを見続け、性格を知り、練習の状態や試合への思いを確認する中で、より彼女のことを理解するようになった。不破がストレスなく、何の心配もなく練習できるようにするには何をすればいいのかがわかってきたという。
「例えば、あの子の性格だと『何かをしてほしい』という時も、あまり人にいろいろ言えるような性格じゃないんですよ。ただ、心に秘めているものは絶対にあるはずなんです。それを言えないストレスが生じてくる。だから先回りして、こうしてほしいだろうなということをこちらから『こうしたいと思っているんだけどどうかな』と提案してあげたりはしていますね」
「聖衣来は賞味期限の一番長いやつから取る(笑)」
選手が自分から「こうしてほしい」と言うのと、監督から「こう思うんだけどどうかな」と提案されたことにうなずくこと。最終的にやることが同じだとしても、アプローチする道筋が異なれば、受け取り方も異なってくる。
「聖衣来はけっこういろんなことを考えちゃうんですよね。例えば毎日乳酸菌飲料を飲むんですけど、彼女は賞味期限が一番長いやつから取る(笑)。だからいろんなものを買ってきた時に、『いつもどおり賞味期限が長いやつを取ってきたよ』って渡してあげる。それだけでも違うと思うんですよね」
練習メニューも基本的には2週間ごとに出しているが、「明日の動きは朝これをやって、午後はこれをやろうね」「治療はこのタイミングで」など、細かくLINEで連絡しているという。そういった五十嵐監督の細かい気配りが、不破の日々の練習や生活を支えているのだ。だからこそ、外野の声にさまざま思うことはある。彼女の注目度が高いがゆえに、結果だけで監督が批判を受けてしまうこともあり、それに怒りが湧くこともあるという。