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羽生善治が持つ「ドロドロとした勝負師の目」とは…当事者たちが語る“羽生マジック”の正体「やられたほうはたまったもんじゃない」
text by

北條聡Satoshi Hojo
photograph byTadashi Shirasawa
posted2023/01/26 17:01
中終盤の妙手によって、鮮やかな逆転劇の数々を生み出してきた羽生善治九段。その当事者となった3人の証言から、“羽生マジック”の正体に迫った
心の奥底まで見透かされている。果たして、そんな相手と平常心で対峙できるものかどうか。羽生と盤を挟む前から、すでに大逆転への布石が打たれていたのかもしれない。にわかには信じがたいとしても。
「あと1分あれば…」中村太地の後悔
天国か地獄か。運命の二択の末、羽生の軍門に下った男がいる。中村太地。羽生に憧れ、棋士となった。
2013年、第61期王座戦。千日手指し直しとなった五番勝負第4局は、将棋大賞の名局賞に選ばれる激闘だった。
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「夕方からの指し直しで、お互いの形勢が良くなったり、悪くなったりの二転三転。盤上に現れない変化が数多くありました。長手数の詰み筋があり、それを互いに避けながら……。以前、天彦さん(佐藤九段)が『お互いに積み重ね、二人だけの世界がつくり上げられていく。だから、二人が共通認識とする世界がある』とおっしゃっていましたが、この一局がまさにそれでした」
その結果、中村が頭を垂れる。
「二人の共通認識とする世界。その前提をひっくり返してしまうような局面がふっと現れて、それまでいいとされていたものの価値が急に下がり、そこで僕が対応しきれなかったなと」
羽生の凄みはギアの切り換え。大駒の角を切って鋭く踏み込んできたかと思えば、自陣に手堅く金を打って局面を落ち着かせる。時間の使い方も自在。序盤の何でもない局面でゆったりと考え、何十手も先に詰みがあるような終盤の難解な局面でパッと指す。マジックらしきものは……。


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