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「たぶん、彼はずっと挑戦し続ける」羽生結弦と関係の深い音響デザイナー・矢野桂一が、「羽生の演技には絶対的なものがある」と語る理由
posted2023/01/23 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
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羽生にとってすべての作品は「大事な子たち」
羽生結弦がプロスケーターとなって初めてのアイスショー「プロローグ」を終えてひと月。音響を担当した矢野桂一氏は、その準備に始まり、全公演に帯同した時間を振り返りながら、こう語る。
「公演を終えてみて、いちばん感じたことは、彼は自分の過去のプログラムに対してものすごく思い入れがある、1つ1つを大事にしているんだな、ということですね。全部が彼自身の作品と言いますか、作品は大事な子たちであって、ほんとうに1つ1つ思い入れがあって今まで滑っていたんだな、という印象をショーの中で強く受けました」
そう感じさせたのは、羽生自身が曲を編集した『SEIMEI』をはじめ、過去の映像からつないで演じた2011-2012シーズンのフリー『ロミオ+ジュリエット』など、それぞれに見せ方と演じ方にこだわりがあったこと、つまり大切にしていることが伝わってきたからにほかならなかった。
忘れられない、羽生の公演期間中の光景
公演期間中、ともに過ごす中で、音楽以外の部分でも心に残る光景があったという。
「例えば」と矢野氏が話したのは、初めて披露されたプログラム『いつか終わる夢』でのことだ。このプログラムは演出振付家のMIKIKO氏が演出を担い、プロジェクションマッピングが用いられた。
「演技のとき、プロジェクションマッピングでリンクに映像が動いていきますよね。最初はその上を滑っていたんですけれど、公演が進む中でMIKIKOさんに、『前半は映像よりも先に滑る、前を行く形にして、後半は「何か」を追いかける形にしたい』と話をして、修正をしていました」
プロジェクションマッピングにとどまらず、「そういう若干の修正作業はかなりやっていました」と付け加える。音だけではなく、細部をどこまでもおろそかにせず、磨いていく姿がそこにあった。