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進取の将棋BACK NUMBER
藤井聡太五冠vs羽生善治九段、注目の初タイトル戦 “藤井将棋”の進化を中村太地七段に聞く「完璧なところから…」「流行を作る側に」
posted2023/01/08 11:02
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
あけましておめでとうございます。2023年も将棋という伝統文化の魅力を、私自身の対局、そして様々な媒体から発信していければと考えています。
まず2022年の将棋界について軽く振り返ると、やはり藤井聡太竜王(王将、王位、叡王、棋聖と五冠)を中心に回っていた1年だったかなと感じます。藤井竜王はタイトル戦で圧倒的な強さを見せられて、現状で5つのタイトルを保持しているわけですから。ただその中でも徳田拳士四段(30勝6敗、勝率.833/以下すべて2022年終了時点)、古賀悠聖四段(23勝8敗、勝率.7419)ら若手棋士がものすごく高い勝率を挙げています。そういった新世代の勢いというのも感じる1年でした。
完璧なところから、精度が少しずつ増しているように感じる
その中で1月8日から8大タイトル戦の1つ、王将戦が始まります。藤井王将に挑むのは、通算タイトル100期がかかった羽生善治九段です。2人のスーパースターが対局する……第1局の王将戦前夜祭への申し込み倍率はなんと、約99倍にもなったそうですね(笑)。それだけの注目が集まる戦いですので、藤井王将と羽生先生のここ最近の将棋や人間性についてお伝えできればと。
まずは藤井王将です。
先ほども触れたように叡王戦に始まり棋聖戦、王位戦、そして直近では竜王戦の防衛など充実著しい。さらに指す将棋の内容もですね……完璧なところから、さらにまた精度が少しずつ増しているようにも感じます。“これ以上どう伸びていくのか?”と思うくらいの凄みです。
指す戦法に関して少し触れますと、前期は「相掛かり」(※飛車先の歩兵がお互いに進んでいく形)を多く指されていたように感じていましたが、今期はまた「角換わり」(※序盤に角行を交換してから駒組みが進んでいく形)が主流となっています。角換わりと言えば藤井王将にとっての“エース”の戦法です。それがさらに磨きがかかって勝ち星を量産している印象ですね。
進境著しいのは「序盤の研究の深さ」
そして進境著しいのは「序盤の研究の深さ」です。
デビューしたての頃はトップ棋士と対局すると序盤・中盤に関してリードを奪われてしまうようなケースがありました。そこから持ち味の終盤力で盛り返す。相手に遅れを取らないようにしつつ、その場で迎えた道の局面を考え抜いて対応する。その対応の正確さが“藤井将棋”の強さでしたが――最近は非常に知見を深めていて、どの棋士と対局しても藤井王将の方が互角ないしリードを奪って終盤を迎えているような状況です。